1巻 男女交際と責任 採録シナリオ
ナレーション(以下N) このビデオの前半は、10代のみなさんの「初めてのキスの動機」、「性行動の動機」、そして「20歳未満の人工妊娠中絶の実数」を示し、それぞれの背景に、中学生・高校生の討論と意見の一部を挿入。
後半は、こうした性行動の結果、望まない妊娠 ―― 産み育てるか、中絶するかと迷う実話をもとにした構成となっています。
■初めてのキスの動機
では、まず「初めてのキスの動機」から――あなたの場合は、どれにあたりますか?
「性的に興奮して」「愛していたから」「せまられて」「好奇心で」「好きだったから」「なんとなく」となっています。みんなの場合は、どれに該当するかな?
これをグラフにすると、こうなっています。このグラフで問題なのは、男子の動機に「性的に興奮して」が21%、「好奇心で」が25%もあること。
これに対して、男子の意見は――(以下は、授業での討論から抜粋して収録したものです)
男子 男子は興奮すると何をするかわからなくて、あとのことは考えずに「やることはやってしまえばいい」という感じが多いと思います。
N こんどは女子の問題点。女子は「迫られてキスをしてしまった」が19%もあります。どう思いますか?
女子の意見は――
女子 男子のことが本当に好きだったら、やっぱり、その人の思ったとおりにしてあげたほうがいいのかな、という思いになって。だから、自分の思っている気持ちよりも、相手の気持ちを優先にしちゃうところがあるから……。
N 愛しているなら「自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先してしまう」というのは、ちょっと問題だと、思いませんか?
討論の結果、女子は、イヤなら「イヤ!」と、はっきり意思表示をする。それを受けて、男子は「考えなおす」と答えました。
そう、お互いに相手の意思、そして「人権としての性」を尊重することが大切ですね。
■性行動の動機
次に、「性行動の動機」は――男子の場合は、「性欲から」が43%。「好奇心で」が18%。「愛していたから」は13%。
これに比べて女子の方は、「愛していたから」が50%、「好奇心で」が12%、「性欲から」は7%と、大きく差が出ています。これをグラフにすると、こうなっていますが、あなたはどう思いますか?
この差について、高校生女子の意見は――
女子 女子の考えている「男女交際像」と、男子の考えている「男女交際像」は、ずいぶん違うと思のね。女の子は、手をつなぐだけでとか、キスするだけでいいとか考えてるんだけど、男の子は、そうは考えてないと思うから……。
男子A 男子のほうはさ、触りたいとか……、
男子B からだを求めたいんだろ?
男子A そう、そう、そう……。
N 男子は、女子の体にさわりたい、体を求めたいという性衝動から、行動してしまった。一方、女子の方は、好きだったら、相手の思うとおりにしてあげたいと、受け入れてしまい……その結果、
■20歳未満の人工妊娠中絶件数
1年間の20歳未満の人工妊娠中絶件数は、総数の約10分の1にあたる、21,535件となっています。
(平成21年度/厚生労働省)
もしも、こうした望まない妊娠という現実に遭遇したら、どうしますか?高校生の男子と女子はそれぞれ……
男子 高校生ですから、子どもを育てていくことって、ホントにできないと思うんです。ホントに、ダメですよね。
女子 産むんだったら、絶対、自分が自立して、相手と対等に作っていける家庭を持つときに産みたいから、この状態(高校生)だったら、私は中絶すると思います。
N あなたなら、どうしますか?クラスでよく話しあってみましょう。
(ここで映写を止めて、生徒間で討論するといいと思います。後半は、討論が終ってから見るといいでしょう)
N これは、実際にあった、ある高校生の「男女交際と責任」についての物語りです。
西島ゆき16歳、高校2年生です。彼も高校の2年生。2人の交際は、もう2年近く続いています。
けれど今日、彼女は彼に、重大なことを話そうとしています。もう何週間も月経が遅れているのです。「まさか……どうしよう……誰に相談したらいいのか?」
2人は、「10代のための相談室」も開かれているという産婦人科医院を訪ねました。病院の待合室は、おなかの大きい女性や、赤ちゃんを連れた人で一杯でした。
「お願い……何かの間違いでありますように……」
(うなだれて座っている2人に、看護師が声をかける)
看護師 西島さん、どうぞ、こちらで診察です。
■診察室で
長池博子先生 4月17日が最後と書いてあるけれども、4月までは、ずっと順調だったわけね?
ゆき はい。
先生 16歳というと、高校2年生?
ゆき はい。
先生 相手の方はいくつ?
ゆき 同い年です。
先生 16歳。同級生?
ゆき そうです。
先生 誰かに相談しましたか?
ゆき いいえ。
先生 まだ相談してない?お母さんには?
ゆき 言っていません……。
先生 はい。では診察しましょうね。
N (診察台に上がるゆき)女の先生を選んでよかった。優しそうな先生……。
でも、こわい! 何をされるのか?
先生 じゃあね、脚を外に倒して……楽に呼吸しててね。いいですか。痛いところはない?ここもなんともない?
ゆき はい。
先生 触ってるのわかる?
ゆき はい。
先生 これ、子宮よ。
■再び診察室で――妊娠と告げられる
先生 あなたが心配してきたように、妊娠なのよ。どうします?言わないわけにいかないわね?お母さんに、言えない?
ゆき はい……。
先生 彼とつきあってることは、知ってるの、お母さん?
ゆき 知ってます。
先生 じゃあ、彼はお母さんと会ったことはあるわけね?
ゆき はい……。あのう、先生、学校に、こういうことがわかっちゃうと、退学になっちゃうんですけど……。
先生 先生のほうから、学校に知らせるなんてことは、絶対にしないのよ。あなたの秘密を守ってあげるけれど。でも、あなたとしては、隠してお産するってわけにはいかないわね。彼には言ってあるわけ?
ゆき はい。いま、一緒にきています。
先生 ああ、一緒に来てるのね。じゃあね、とにかく妊娠だということを、彼に話をして、そしてどうするか、二人の気持ちを、話しあってみて。そして、話しあった上で、お母さんには、話をしなきゃだめよ。
ゆき ……はい。
先生 16歳でしょ。責任者の方に相談をしないで決めるわけにはいかないの。だから、お母さんに話をして、そしてどうするか決めて。よく相談してね。
ゆき はい。
■待合室に戻って……
N ゆきの気持ちは、産みたい方に傾いています。2人でがんばれば、やっていけないことはない……。
ゆき ね、いいでしょ?
彼 (困惑の表情で)この先のこともあるし、どうするんだよ……。
N (彼の独白)ぼくには、子どもを育てていく自信がない。それに、どうやって生活していくつもりなんだ。
(ゆきの独白)産みたい。学校をやめてでも、産んで育てたい……。
2人の気持ちは、平行線を辿っています。
■10代のための相談室で――
産もうか、中絶をしようか、二人は翌日、同じ病院の中にある、“10代のための相談室”を、たずねました。
相談員の助産師さんは、妊娠と中絶について、図を見せながら説明してくれました。
■妊娠週数の数え方
これは、WHO(世界保健機関)が統一した、妊娠週数の数え方です。最後の月経のあった週を0週として、1週、2週……と数えていき、40週前後が出産予定日です。
日本では、「母体保護法」という法律で、最終月経の週から数えて11週と6日までが初期中絶。12週以降21週と6日までが中期中絶。22週以降の中絶は禁じられています。
望まない妊娠の中絶について、保健師さんは――
ここが排卵日。このあたりで性交が行なわれたとして、「妊娠では?」と心配になるのは、次の予定日が過ぎても、なかなか月経が来ないことによってですね。
ゆきは昨日、先生から妊娠10週と6日と告げられましたね。一刻も早く中絶しなければ、中期中絶になってしまいます。(考え込む2人)
お互いに話しあって中絶を決意した場合、このような同意書が必要なこと、そして、「言いにくいのはわかるけど、二人とも親に相談するように」と助産師さんは、忠告してくれました。
■街をさまようゆき
ゆきはまだ迷っているようです。産むか……中絶するか。どんなにつらくても、悲しくても、最後に決めるのは、誰でもない、彼女自身なのです。
ゆきは、その夜、思いきって、お母さんに打ちあけました。
■短大卒業式のあとで
あれから4年――ゆきは短大を卒業。保育士の資格を取得しました。彼女は当時を振り返って……
ゆき (インタビュー)以前は「好き」だけで、相手のこととか、これから先のこととか、何も考えていなくて、好きであればこのままやっていけると。子どもだって、好きであれば産んで幸せに暮らしていけるって、そんな簡単な考え方でしたけれど、中絶してからは、まるっきり変りました。相手を見る目も変りました。
N 彼との交際は?
ゆき 交際は、終りました。
みんなよりも、特別なことを体験できた。悪いように捉えないで、自分にプラスになるように考えて、経験したことをステップに、これからの考え方も変っていくし、しっかりしてくると思うんです。冷静に物事が見られるようになりました。
■職場に向かって――
N 西島ゆき、20歳。彼女はいま、「自立した女性」としての第一歩を、しっかりと踏み出したところです。