3巻 喫煙・飲酒と健康 採録シナリオ
ナレーション(以下N) みなさんは知っていますか?「未成年者喫煙禁止法」「未成年者飲酒禁止法」という法律で、20歳までは、タバコもお酒も、吸ったり飲んだりしてはいけない、と決められていることを。
というのも、これらが、いま盛んに発達している10代のみんなの脳を、ダメにしてしまうからなんですね。
私たちの脳には害になるものは通さない、血液−脳関門※という関所がありますが、タバコの中のニコチンや、お酒の中のアルコールは、フリーパスでくぐりぬけ、脳に害を及ぼすのです。
●タバコの害●
タバコの煙の中には、200種類以上もの、有害物質が含まれていて、中でも、ニコチン、タール、一酸化炭素の3つは、最も有害な物質です。
(街頭風景)……とも知らずに、平気でタバコを吸う若者たち。女性の喫煙者も増えています。
■ニコチンの害
ニコチンは、血液の流れを悪くします。
ここは、タバコの害に関する研究をしている研究室です。
ウサギの耳に小さな穴をあけ、そこに再生された血管の血流の変化を観察します。
(顕微鏡写真で説明)これが細動脈、これが細静脈です。
ウサギの鼻先にタバコの煙を近づけて、ほんの少し吸わせてみると、血液の流れは どう変化するか?
いま1秒後……5秒たちました。このように、はっきりと血液の流れが阻害されている、抑制されているということが、わかりますか?
いま20秒。そろそろ回復し始めていますね。30秒。すっかり戻ったようです。
この実験は、ウサギの鼻先をかすめたぐらいのニコチンの量でしたが、人の場合には、大量のニコチンが取り込まれるため、血管の収縮がもと通りに回復するのには、タバコ1本につき、30分〜60分もかかるそうです。
ということは、1日に20本吸う人の毛細血管は、吸っている間中、収縮と回復を繰り返しているというわけ。体にいいはずは、ないですよね?
■タバコがやみつきになってしまうのはなぜか?
(イラスト)タバコを吸うと「ああ、おいしい」とニッコリ。吸わないでいるとイライライラ。吸うとニッコリ、吸わないでいるとイライラ。ニッコリ、イライラ、ニッコリ、イライラ……、こうして、いったん吸いはじめると、やめられなくなるのも、ニコチンのせいなのです。
では、やめられないからと、妊娠中の母親が吸い続けているとどうなるか?
ニコチンの作用で、へその緒の血管が収縮して、胎児に送られる血液の量が減少。体重の軽い赤ちゃんが生まれてくる可能性が大きくなるのです。
■タールの害
喫煙人形に火をつけたタバコをくわえさせて、エアポンプで煙を吸いこませます。1本吸わせてから、綿をつめた肺を観察。
こちらの肺には、タバコの煙が入らないようにしてあるので、比較すると、わずか一本のタバコで、その差は歴然!肺がタールで黒く汚染されているのがわかりますね?
1日20本吸う人が、1年間で取り込むタールの量は約コップ1杯分。タバコを吸い続けることで、この発がん性物質であるタールを、10年間も体の中に取り込むとしたら?20年間取り込むとしたら?どのくらいになるか、想像できますよね。その結果は?肺気腫による呼吸困難、そして肺がんです。
■一酸化炭素の害
タバコを一服吸うと、300から400ppmもの一酸化炭素を含む煙が、肺に取り込まれます。
私たちの体に最も必要な酸素を、せっせと運ぶのは、赤血球の中のヘモグロビンです。ところが、タバコの煙の中の一酸化炭素は、酸素を押しのけて、240倍という強さでヘモグロビンを乗っ取ってしまうのです。
その結果、赤血球の中の一酸化炭素ヘモグロビンが増えて……近ごろ、なぜか「記憶力が減退したな」と思って頭の中をあけてみると?ほーら、一酸化炭素ヘモグロビンで一杯。こんな状態で……、
吸う前は5分で間違いは2つ。吸ったあとは6分かかって、間違いも3つに増えました。
これは、タバコの煙の中の、一酸化炭素のせいなのです。
ここは東京の新宿駅――あの囲いの中の人たち、何をしてると思いますか?このホームでは、喫煙者は、この喫煙所と呼ばれるオリの中でしか、吸ってはいけない規則になっているのです。
というのも、タバコを吸う本人はもちろん、その煙を吸わされる、まわりの人にも害をおよぼすからなんですね。
■主流煙と副流煙とは何か?
お父さんが吸いこむタバコの煙を主流煙といいます。その煙の中の、ニコチン、タール、一酸化炭素の害については、もうわかっていますね?
ところが、そばにいて吸わされるタバコの煙――これを副流煙(受動喫煙)といいますが、その害はもっと大きいのです。
副流煙の中には、吸っている本人が吸いこむ主流煙に比べて、ニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、(生徒の声「ヤバイな!」)一酸化炭素は4.7倍も含まれているんですよ。
父親や母親がタバコを吸っている家庭の赤ちゃんは、気管支炎や肺炎になる率が、吸わない家庭の赤ちゃんの2〜3倍。これも、吸わされるタバコの煙、副流煙が原因といえるでしょう。
■喫煙と健康
やめようやめようと思っても、やめられないタバコ―ずーっと吸い続けていると?ほら、体じゅうのピカピカしているところ(表紙のイラスト参照)、そこが全部ダメになるんです。これが全身におよぶタバコの害です。
いま、みんなの前に、二つの道がひらかれています。
きれいな肺で、きれいな空気を吸う道と、よごれた肺でよごれた空気を吸い続ける道。 さあ、どちらを選びますか?
喫煙か健康か? YOUR CHOICE そう、選ぶのは、あなた自身です!
●お酒(アルコール)の害●
(イッキ飲みをする若者)これは、若者の間ではやっている“イッキ飲み”の様子です。これを見て、どう思いましたか?
■血中アルコール濃度と脳への影響
この絵は「血中アルコール濃度」といって、飲んだお酒の量が増えるにつれて、血液の中に何%のアルコールが含まれるようになるのか?アルコールが含まれた血液が、脳にどのような影響をおよぼすのか?を示したものです。
飲むアルコールの量を示すときには、ビール中ビン1本(500ml)、日本酒1合(180ml)、ウィスキー ダブルで1杯(60ml)、缶チューハイ1.5缶(520ml)を、1単位としています。
1単位のアルコールを飲むと、血中アルコール濃度は0.03%。それが脳に運ばれ、「ルンルン」と愉快な気持ちになります。
2単位飲むと、血中アルコール濃度は0.1%に増えて、「ワーイ!」。
3単位飲むと、血中アルコール濃度は0.15%になって、
「ベラベラベラ」と、しゃべりまくり、6単位飲むと、血中アルコール濃度は0.3%で、ベロンベロン。
さらに飲み続けると、血中アルコール濃度は0.4%。立っていられなくなり……ついに0.5%に達して、バタン、キュー!そのあと、どうなるか?
二日酔いで、頭はガンガン、胸がムカムカして、仕事を休む……というぐらいならまだしも、その場で呼吸麻痺を起こして「さようなら」―これが、アルコールによる急性中毒死です。
では、なぜ、体の動きがコントロールできなくなるのか? 血中アルコール濃度が増すにつれて、アルコールが脳を麻痺させていく様子を見てみましょう(上図参照)。
血中アルコール濃度が高くなるに従って、脳が麻痺し、爽快期、ほろ酔い期、酩酊期と進み、小脳までくると、小脳は知覚と運動機能などをつかさどる部位なので、体がゆらゆら、足ももつれて立っていられなくなり、遂にバタンと倒れる。
もっと怖いのが、脳幹の麻痺です。ここは循環器系と呼吸器系の働きを調節している部位なので、麻痺が延髄まで達すると、呼吸と心臓が止まり、急性中毒死ということになるのです。
■飲める体質と飲めない体質があることを知ろう!
アルコールは肝臓で分解される仕組みになっています。
アルコールが入ってくると、アセトアルデヒドという猛烈な毒性をもつ物質に変わりますが、アルデヒド脱水素酵素T型とU型によって分解され、酢酸になります。
酢酸は血液によって全身をめぐり、無害な水と二酸化炭素に分解されて、体の外に排出されるのです。
■お酒を飲めない人がいることを知ろう
ここで強調しておきたいのは、日本人の44%は、生まれつき、アルデヒド脱水素酵素U型の働きが弱い体質の人なんですね。だから、「練習すれば飲めるようになる」なんてウソ!「私は生まれつき飲めない体質だから飲めません」と、断ることが大切です。
■アルコール依存症とは?
アルコール依存症とは、意志の弱い人、しょうがない人というのではなく、『アルコールなしでは生きていけない』という、精神疾患のひとつなんですね。
いまは、アルコール依存症から立ち直って、同じ依存症の人びとの相談に乗っている、カウンセラーの岩本さんに、その体験を聞きました。
岩本さん 中学3年のときに友だちの家に泊りに行って、ふざけ半分で、おとなの真似をして酒を飲んだのが、きっかけだったですね。
飲んでいるうちに酒量はどんどん増えてきて、私の場合、最後のころは、日本酒一升とウィスキーボトル1本を、食事もしないで毎日飲んでいました。
家族は、最初の頃は、私の酒をやめさせるために、一生懸命努力してくれました。治療に通っているときも、病院に入院しているときでも、酒を飲み続けていた私に、家族は遂に絶望したのでしょう。妻は二人の息子を連れて、私の入院中に逃げて行きました。
退院してから独りになった私は、逃げた妻と息子のことを恨みながら、その恨みを酒の肴に、また、前よりひどい飲み方をしました。
しばらくして気がついてみたら、40歳を過ぎているのに、私の周りには誰もいなくなっていました。家族も、友人も、仕事仲間も……。そんなとき、「たった一人で俺は生きていけるんだろうか?」と思ったときに、「もう、酒をやめよう」と思いました。
N 飲酒が原因の辛い人生……軽い気持ちで飲み始める年ごろのみんなにとって、ためになるお話でしたね。
■酒酔い運転、酒気帯び運転はキケン!
最後に、これだけは絶対に覚えておいてほしいこと。
それは、お酒を飲んでの 運転です。
お酒が入ると、荒っぽい運転、注意力が散漫、判断力が鈍り、視野が狭くなって、事故につながりかねません。
いま、酒酔い運転、酒気帯び運転への罰則が厳しくなっています。お酒を飲んでの自転車も、取締りの対象だということを、知っていますね?
飲酒による事故は、いつ起こすか予測できない。明日にも起こすかもしれない、あなた自身の問題なのです!