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「思春期の心とからだ」新編集シリーズ

4巻 薬物乱用の害と防止

◆性教育 ◆中学校以上用 ◆17分

若者の間に広がっている、遊び半分の薬物使用が、精神依存から身体依存へ、そして、妄想、幻覚、フラッシュバックを起こし、犯罪にまで移行していく実態を追及する。12歳からタバコ、シンナー、覚せい剤へとエスカレートした女性からの10代へのメッセージも収録。

制作者・北沢杏子より 
 未成年者の有機溶剤や大麻、向精神薬乱用のニュースが後を断たない。ガスパン遊びで急性中毒死した中学生、ネット購入した大麻の種子を自室の押入れで栽培して逮捕された高校生。覚せい剤とも知らずに繁華街で(暴力団の男から)手渡され、乱用にはまってしまった女子生徒……いまや「うちの子に限って」、「わが校には関係ない」は通用しない。
 某高校の養護教諭はその手記で、女子生徒が登校後に強い腹痛を起こし受診した結果、薬物使用によるものとわかり、鑑別所→児童相談所→保護観察→校内謹慎と処置された経緯を綴っている。これを契機に「薬物問題を非行問題としてではなく、誰にでも起こりうる問題として」、生徒指導部と連携して予防教育を開始。今はまだ経験はなくても、いわゆる“グレーゾーン”にいる生徒にこそ、この教育は必要であり、その生徒の家庭環境および成育歴も察知する必要があると力説している。
 本作品は、薬物取締官からは「未成年者がどのような手口で暴力団のターゲットにされるか」などのマル秘情報を、少年院出院者のNさんからは、タバコ(12歳)→シンナー(14歳)→覚せい剤(18歳)と、より強い薬物に依存していった経験を語ってもらい収録した。「10代のみなさん、自分のいのちを大切に!」が、Nさんからのメッセージであり、本作品のテーマである。

 


4巻 薬物乱用の害と防止  採録シナリオ


ナレーション(以下N) みなさんは、依存性のある薬物、つまり、やみつきになる薬物の害についてどの程度知っていますか?
 覚せい剤・シンナー・ヘロイン・マリファナ――これらの薬物の使用や所持、売買は、法律で厳しく禁じられています。というのも、いま、どんどん発達しようとしているみんなの脳を、これらがダメにしてしまうからなんですね。
 私たちの脳には、害になるものは通さない、血液−脳関門という関所がありますが、これらの薬物はフリーパスでくぐり抜け、脳に害をおよぼすのです。

■依存性のある薬物は、何種類ぐらいあるのか?

 それぞれ薬理作用は異なりますが、こんなにあるんです。
 (イラストを示しながら)これは、脳を興奮させ、ハイな気持ちにさせる薬物。これは、見えるはずの無いものが見えたり、聞こえるはずの無い声が聞こえたりという、幻覚を引き起こす薬物。これは、神経細胞の働きをおさえて、うっとりした気分にさせる薬物。これは、イライラや不安をなくして、快適な気分にさせる薬物です。 



 ふつう10代の若者の場合、好奇心から、タバコ、そしてお酒へ。さらにシンナーへと進み、シンナーからマリファナへ、そしてLSDやMDMAへ。あるいはコカインや覚せい剤へと、より強い薬物へエスカレートしていくようです。
 これらの薬物は、直接吸ったり、炙って吸い込んだり、注射器で体内に注入したりしますが、いったん始めるとやめられなくなり、入院して薬物を断たれると、「離脱症状」といって、(写真を示しながら)このような苦しい状態になるということです。

■薬物は、どういうきっかけで使うようになるのか?
 繁華街の雑踏の中で声をかけられ、キケンな薬物とも知らずに、つい手にしてしまうことが少なくないそうです。
 厚生局・麻薬取締部の、上野さんに聞いてみましょう。

上野 先日、当局で逮捕した少女は、初めて覚せい剤を使用したのは12歳のときであると。これも、暴力団員から、言葉巧みに誘いをうけて、覚せい剤を注射されたと。
 とにかく覚せい剤とか麻薬に関しては、初めだけ、あるいは1回だけで、あとはもう絶対打たなくてすむということはありえないわけで、たとえ1回といえども、そういった誘惑に打ち勝って、クスリというものを、自分の身の回りから排除していただきたいと思います。

 これが「薬物取締法」によって押収された、薬物のサンプルです。
 「あへん法」のあへん、けし。「麻薬および向精神薬取締法」のモルヒネ、ヘロイン、コカイン、LSD。「大麻取締法」のマリファナ、ハッシシュ。「覚せい剤取締法」の覚せい剤のいろいろ。
 先ほどのお話にもあったように、絶対に誘惑に乗らないことが、大切です。

●シンナー(有機溶剤)の害●

 好奇心や、仲間に誘われたりして始めるのが、シンナーです。
 (現場の写真)これは、空き家を溜り場に、ボンドやガスパン遊びにハマってしまった中学生の1人が、延髄麻痺により急性中毒死した、事故現場です。
 「友だちに誘われて」とか、「仲間はずれにされたくなくて」などの理由で、薬物に手を出してはいけない! わかりますね。

■シンナーの薬理作用
 その薬理作用を、説明しましょう。
 シンナーを吸うと、脳の神経細胞が麻痺して、うっとりしたイイ気分。まわりのものがゆがんで見えたり……と、不思議な気分になります。
 で、もう一度、こうした気分を味わおうとすると、同じ量ではなれません。あっという間に使用量も回数もどんどん増えて、食事もせず、“それなしでは過せない”という生活になってしまいます。
 そのうち、聞こえるはずのない声が聞こえたり、見えないはずのモノが見えたりという、妄想や幻覚があらわれて、
犯罪にまでおよんでしまうことも、少なくないのです。

 ここは、下総精神医療センター。シンナー遊びにハマった女子高生が、「なんとかやめたい」と相談に来ました。

小沼杏坪先生 (女子高生に向かって)シンナーのために、何か、見るものが違って見えたりしたことは?
女子高生 畑でやってたときに、蛙がゲコゲコ鳴くんですね。そうすると、人間がみんな蛙に見えちゃうんです。一緒にやってる仲間が、大きな蛙に見えちゃって、それが凄い気持ち悪くて……。

 なぜ、そのような幻覚が現れるのでしょうか?
 左は正常な人の脳。右は、シンナーの乱用を続けていた人の脳の写真です。脳の神経細胞が萎縮して、大きなスキマができてしまっています。



 いま、どんどん知識を吸収しているみんなの脳が、こんなふうになってしまったら、どうしますか?
 (数ヵ月後)彼女は、この医療センターで治療を受けて回復。インタビューに応えてくれました。

女子高生 絶対にダメですね。自分のからだを考えるんだったら、やめてほしいですね。いまやってる子にも言えることですし、いま興味を持っている子にも言えることなんですけど、若いんだし、その興味を、もっと他のほうに向けてほしいです。とにかく、シンナーとか覚せい剤とか、やめてほしいです。

●覚せい剤の害●
 実際に取締りにあたっている麻薬取締官は、10代の若者たちに覚せい剤を売りつける売人の目的について――

取締官 暴力団が男の子に近づく場合は、クスリを与えることによって暴力団に引き入れる。あるいは、売人に仕立て上げるんですね。女の子の場合ですと、自分の女にするために打つ。自分の女にするということは、売春をさせたり、そういうことのために使うんですね。

 いまのお話にもあったように、だまされて使ってみると、「わぁーっ」と、ハイな気分になるものの、その効果が切れると、ガックリ落ち込みます。で、もう一度あの気分になりたいと、薬物を使う。使用量が増えます。いい気分になる……。こうして「薬物依存」という、やみつきの門に入っていくのです。すると、どうなると思いますか?

 投与する薬物の量も回数も、あっという間に増えて、買うお金がなくなります。
 どんなことをしてでも薬物がほしいから、ひったくりや恐喝、女の子なら売春など、手段を選ばない生活に陥っていきます。そのうち脳が侵されて、妄想や幻覚に襲われるようになり……

 これは、覚せい剤の乱用で脳障害を起こしたある女性が、しばしば襲われるという、幻覚や幻聴を映像化したものです。さらに怖いのは、きっぱりやめたあとも、ふとしたことがきっかけで、フラッシュバック※(表紙のイラスト参照)を起こす―これも薬物の脳への影響が原因なのです。
 左は普通の人の脳。右は、覚せい剤を乱用していた人の脳の写真です。
 左の脳は、黄色や赤が多く、活発に働いていますが、右の脳は、それに比べて、青い部分の方がずっと多いのがわかりますか?つまり、薬物乱用の影響で、脳の働きが悪くなっているのです。左右のバランスも悪くなっていますね。
 特に、額の部分、前頭前野が侵されると、理性のコントロールがきかなくなり、衝動的に自殺をはかったり、犯罪を犯したりということにも、なりかねないのです。

■中学生・高校生の間に、薬物使用者が増えているって本当か?
 そう、では、体験者に聞いてみましょう。
 中村すえこさん、35歳。いまは4人の子どもの母親として、夫と共に新聞販売店を経営しています。
 彼女は、タバコからシンナー、そして覚せい剤へとのめり込んでいった少女時代の話をしてくれました。

中村さん 親のタバコを勝手に持ち出して、吸っちゃおうか!みたいな感じで、初めて吸ったのが中学校に入ったばかり、12歳でした。
 で、シンナーが手に入るっていう先輩がいて、シンナー吸おうって話になって。もちろん、初めは好奇心で。
 みんなで、橋の下の土手で、コンビニのビニール袋を買って、両端を縛って、ティッシュをまるめて、そこに液体を染みこませて、ビニールの持ち方も教わって、吸いました。
 友だちに「空気を吸ってるよりシンナーを吸ってるほうが多い」って言われるぐらい、シンナーにハマってしまって、朝起きてシンナー、寝るまでシンナー、という生活を送っていた時期がありました。

 その後15歳で、女子の暴走族、レディースの四代目総長になり、10数人の非行少女を従えて、得意の絶頂。ところが、16歳で傷害事件を起こし、少年院に措置されました。
 1年後、出院してきてみると、もう次の総長に代わっており、グループから追放されてしまったのでした。

中村さん 暴走族をやめさせられたことで、私は、仲間とか居場所とか、そういうものを全部失って……。
 少年院を出てきたのが17歳。仮退院してから半年後で、18歳になっていました。どう生きていけばいいのかわからない状態のときに、テレビのCMで『覚せい剤やめますか?人間やめますか?』というのが流れていて、「アタシはぴったりじゃねぇか、覚せい剤打つ人間として」って思って、迷うことなく注射しました。
 1ヵ月半から2ヵ月ぐらいたって、覚せい剤を仕入れに、車で何人かで出かけたときに、(警官から)職務質問をうけて、「腕を見せてみろ」って言われて……。腕には針の痕があるから、そのまま逮捕されました。
 留置場に入れられて5〜6日たったときに、食べた物を全部吐いてしまったんです。それで(産婦人科の)病院に連れていかれ、おなかにあかちゃんがいることを知らされて……。
 お母さんが面会に来て、お母さんに初めて怒られました。いのちについて。「おなかにあるのは、いのちなんだよ。いのちを守れるのはお母さんになる人だけなんだ」って。
 いのちっていうことが……、生まれてくるいのちもそうだし、いま自分がここにいるのも、いのちがあるからだし。そのいのちを、自分の身勝手な思いとか弱い心で、自分自身にできた新しいいのちを、自分でだめにしてしまったっていうことが……。
 そのとき「変りたい」と思った。「これで私が変れなかったら、もう自分には、変れるチャンスはない!」と思いました。それが、「変りたい」と思ったきっかけです。

 「いのち」の大切さに気づいて、薬物乱用から立ち直った中村すえこさん。
 いま、彼女は自ら「出院者です」とカミングアウトし、少年院の少女たちの許に通って、講話などのボランティア活動をしています。

 最後に、10代のみんなに向かってのメッセージです。

中村さん 10代の短いあいだの青春、自分をだいじにしてください!

 いまは明るいすえこさん。よかったですね!

 とはいうものの、薬物を乱用する10代は、ひそかに広がっています。きょうも14歳の少女が、お母さんに付き添われて、専門医のもとにやってきました。
 症状はかなり進んでいるようで、その場で入院と決まりました。

 薬物乱用は、別の世界のことではない!明日にでも、あなたの身近に起こる問題なのです。

税別価格 各巻 12,000円 (ライブラリー価格 各 24,000円)

「思春期の心とからだ」新編集シリーズ 全4巻

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