採録シナリオ
ナレーション(以下N) 脳は人間にとって、最も大切なところです。生まれたとき、約350gしかなかったみなさんの脳の重さは、思春期には、大人の脳の重さ、約1350g近くまで発達しており、これから20歳にむかって、前頭前野―つまり「理性」の部分を完成させる重要な時期なのです!
この大切な「脳の完成の時期」に、タバコ・アルコール・危険ドラッグ、そしてネット依存が、どのような害を及ぼすのかが、この教材のテーマです。
4人の専門家の方々(栗原久先生、渡辺文学先生、今成知美先生、山口修平先生)からのメッセージを、お伝えしましょう。
あとで質問するのは、生徒の代表の一人です。
■血液−脳関門
N これは、みなさんの脳の側面図―たくさんの血管に囲まれていますね。この血管には、「血液・脳関門」という関門があって、脳の神経細胞の活動に必要な、酸素やブドウ糖は通過させますが、有害な化学物質や細菌、ウイルスなどはシャットアウトするのです。
ところが、困ったことに、脳の神経細胞にとって有害な、たばこのニコチンやアルコール、危険ドラッグ、そして覚せい剤などは、やすやすと、この関門を通過して、神経細胞に害を与えるんですよ。
■たばこの害
N では、「たばこの害」から―たばこの煙の中に含まれている三大有害物質、ニコチン・タール・一酸化炭素の中の、「ニコチンの害」の実験を見てみましょう。
N ウサギの耳に特別な装置をつけ、血管の変化を観察する実験。
ウサギの鼻先にたばこの煙を近づけて、ほんの少し吸わせてみると、
1秒……5秒……10秒……20秒、
男子 あっ、止った!
N 26秒
男子 もとに戻った!
N そう、このように、たばこの煙の中の有害物質ニコチンは血管を収縮させ、血液の流れを悪くするのです。
この実験でのたばこの煙の量は、ほんのわずかだが、ヒトの場合は、たばこ1本分の大量のニコチンが、直接、肺の中に取り込まれるため、体中の収縮した血管が、元通りに回復するには、たばこ1本につき40分かかる……、ということは、1日に20本吸う人の血管は、“吸っている間は収縮、吸わない間は回復”と、血液の流れを四六時中、阻害しているのです。
N これは、何だと思う?
男子 吸いかけのタバコがぐにゃっと曲がってる。
N これは、海外のタバコのパッケージについている写真。
下の警告文を読んでごらん。
男子 「喫煙は血流を減らし、インポテンツの原因となることもある」だって!どうして?!
N インポテンツ―勃起はなぜ起こるか? みんなが、性的な雑誌などを見て脳が興奮すると、すばやく勃起中枢が反応して、ペニスにどっと血液が流れ込み、膨張して固く立つしくみになっているんだ。
ところが、たばこの煙の中のニコチンは、血管を収縮させるので、ペニスに流れ込む血液の量が減って、勃起不能になっちゃうわけだ。
男子 え、マジかよ!?やべぇ!
N じゃあ、もう1つの、これを読んでごらん。
男子 「喫煙は、致命的な肺がんの原因となる」……。キモッ!どうして、たばこのパッケージに、こんな写真を載せるんですか?
N 世界保健機関は、2004年、「たばこ規制枠組条約」を採択しました。
これを批准した世界の180ヵ国は、たばこのパッケージの50%以上、
最低でも30%を使って、このような写真か警告文を載せ、人びとに、
たばこの害を知らせなければならない義務があるのです。
N 次に、タバコの煙の中の三大有害物質のひとつ、「一酸化炭素」の害について説明しよう。
みんなが励んでいるスポーツや勉強には、血液からの十分な量の酸素の供給が必要だということは、わかっているね?ところが、A君は、サッカーの練習中だというのに、ハアハアハアと息切れ状態。B君は、勉強しようと机に向かったのに、集中できない。どうしてだと思う?
実は、たばこのせい!なんだ。
男子 えっ、たばこと、どういう関係があるんですか?
N 人間のからだ全体に酸素を運ぶのは、赤血球のヘモグロビンだ。
ところが、たばこの煙の中の一酸化炭素は、強い力でヘモグロビンと結合し、酸素の量をぐーんと減らしてしまう。つまり、A君もB君も、こっそりタバコを吸っていた……。
で、2人の血液の中を覗いてみると、「一酸化炭素ヘモグロビン」で一杯! つまり、たばこを吸っていたため酸欠状態で、じゅうぶんに能力を発揮できなかった、ってわけなんだ。
男子 わぁ、マジかよ!
N こんな光景を見たことがあるかな?
通勤の途中でも、喫煙所に飛び込んで吸う男たち。たばこは、いったん吸い始めると、やめようと思ってもやめられなくなる。職場に遅刻してでも、こうして吸いたくなるんだね。こうなったら、もう「たばこ依存」だ。
こうして、長年吸い続けた結果―
男子 えーっ、こんなに体中が、がんにィ!
N 肺がんばかりか、こんなふうに、いろいろなところが、がんになるんだ。
だから、たばこは「最初の一本に手を出さない!」こと。
男子 はーい。みんなに伝えます!
■アルコールの害
N 次に、アルコールの実験。専門家による、アルコールの実験を見てみましょう。
こちらマウスには水道水を、こちらのマウスにはアルコールを飲ませました。
10分後、マウスを、高さ15cmのビンの上にのせてみると……、マウスは高所恐怖症なので、指で押しても飛び降りることはなく、じっとしています。
ところが、アルコールを飲ませたマウスは、脳の機能が麻痺して……飛び降りてしまう……。人間でいえば、酔っ払って、駅のプラットホームから落ちて、「人身事故」ということになるんですね。
とくに、「イッキ飲み」は危険―。その現場を見てみましょう。
(イッキ飲み実写。若い男性が、ビール1本を飲み干して得意!)
N いま、この男性が飲んだアルコールは、からだの中で、どうなっていくのか、説明しましょう。
アルコールは、肝臓で分解されます。アルコールが入ってくると、「アルコール脱水素酵素」が働いて、「アセトアルデヒド」という、すごい毒性を持った物質に変える。
次に、「アルデヒド脱水素酵素T型とU型」がこれを分解して、無害な酢酸となり、さらに炭酸ガスと水に分解されて、体の外に排出される―という順になっているんだ。
ところが、日本人は、遺伝的に、このアルデヒド脱水素酵素U型の力が弱くて、アルコールを分解できない人が、44%もいる。つまり、半数近い人が、生まれつき、お酒が飲めない体質だということ。……なのに、
男 「男だろ、飲めよ!」
N なんて、無理やり飲まされたら、どうなるか?
アルコールが脳をどんどん麻痺させて、ついに、呼吸と循環をつかさどる、延髄までいくと、呼吸麻痺をおこし、心肺停止! 「急性アルコール中毒死」となるんだ。
一方、「俺は飲める体質だから大丈夫!」といって飲みまくっていると、アルコール依存症になってしまうこともあるのです。
今は、アルコール依存症から立ち直って、ソーシャルワーカー、カウンセラーとして活躍している、岩本さんの話を聴いてみよう。
岩本昭男さんの告白 中学3年のときに友だちの家に泊りに行って、ふざけ半分で、おとなの真似をして、酒を飲んだというのが、きっかけだったですね。
飲んでいるうちに酒量はどんどん増えてきて、私の場合、最後のころは、日本酒一升とウィスキーボトル1本を、食事もしないで毎日飲んでいました。
病院に入院しているときでも、酒を飲み続けていた私に、家族は遂に絶望したのでしょう。妻は二人の息子を連れて、私の入院中に逃げていきました……。そんなとき、「たった一人で俺は生きていけるんだろうか?」と思ったときに、「もう、酒をやめよう」と思いました。
■知っていますか?危険ドラッグ
N 危険ドラッグって、知っていますか?
これは何だと思いますか?これが、いま若者の間に広まっている、危険ドラッグです。私たち取材班は、厚生労働省 関東信越厚生局 麻薬取締部をたずね、最も新しい危険ドラッグの現物を見せてもらいました。
男子 んん、なんか……、ちょっとアブナイ感じ…… @ABとか書いてあるのは、何ですか?
N いまはパッケージで売らないで、このような番号で密売しているそうです。
男子 この、たばこをほぐしたような物は何ですか?
N 植物の葉や茎を乾燥させて、細かくしたものです。
男子 これ(左の瓶)はなんですか?
N パウダーです。これらには、覚せい剤に近い成分や大麻の成分、幻覚におそわれる薬物などが混ぜてあり、これを、たばこのように吸うとか、あぶって、煙の匂いをかいだりするそうです。
男子 すると、どうなるんですか?
N 毒性を持った成分が、直接吸収されるので、1秒から3秒という速さで、脳への影響が現れ、幻覚や妄想におそわれることもあります。
混ぜられた薬物によっては、どんな変化が現われるかわからないので、非常に危険です。
男子 このピンクの液体はなんですか?
N 危険ドラッグを液体にしたものです。
これを、ドリンクに入れて飲むと、2〜3分で興奮状態になり、奇声を発したり、踊り狂ったりするようになる。危険ドラッグのせいで、脳がおかしくなっているんですね。
男子 どういうことに気をつければいいですか?
男 「一回だけなら大丈夫だよ」
男 「気持ちよくなるよ」
N などと誘われても、絶対に断わることです。
男子 はい。わかりました。
■気をつけよう!ネット依存
N みんなは、スマホや携帯音楽プレーヤー、ゲーム機などを持っていますか?
男子 はい、持ってまーす!
N そう、ネットを利用すれば、いつでもどこでも、必要な情報をゲットしたり、気に入った映像を楽しむことができる。だが、その陰に、「ネット依存」という、取り返しのつかない危険が潜んでいるんだ。
オンラインゲームにハマった、“K君の話”を見てみよう。
■オンラインゲーム依存とは?
N K君がスマホを手に入れたのは中1の時。とくにK君が気に入ったのが、誰でも気軽に始められる、オンラインゲームだった。
もともとゲームが得意だったK君は、たちまちネットの世界で注目を集めるようになった。
男 「キミ、上手いね!」
男 「キミのおかげで、敵を倒すことができたよ!」
男 「次も頼りにしてるぜ」
N ……と持ち上げられて、A君は得意! ますます、ネットの世界にはまり込んでいく……。
ゲーム仲間は、20代、30代、40代の大人が多かったので、ゲームを始める時間は、夜の10時過ぎ。プレイの時間は4時間から5時間なので、寝るのは午前3時すぎという毎日になっていった。
朝ごはんも、スマホに気をとられて食べられない。学校には遅刻する。授業中も、ゲーム仲間からの信号が気になって集中できない。
……と、だんだん欠席がちになり、ついに引きこもりになって、一日中オンラインゲームのトリコになり、やがて、脳が破壊され、幻覚や妄想が出てきて……。「この先どうなるか?」と心配したお母さんと、国立医療センターの精神科へ。
専門医によると、ネット依存症は、現在全国に420万人おり、そのうち、中学生・高校生は51万8000人もいるとのこと。
そして、この日、K君に告げられた病名は「ネットゲーム依存症」だった!
なぜ依存症になってしまうのか
N なぜ、依存症になってしまうんでしょうか?
私たちの脳は、スポーツや勉強、労働など、努力して目的を達成したとき、脳の中にドーパミンという神経伝達物質が放出されて、「快感」、つまりよろこびを感じるようにできているのです。
ところが、たばこ、アルコール、危険ドラッグ、ネットの世界は、努力しなくても簡単に「快感」を得ることができます。
なので、「もっと、もっと快感を得たい」と、依存にはまり、脳には大量のドーパミンが、ひっきりなしに放出されて、快感の絶頂に!
ところが、そのうち、ドーパミンを受け取る受容体が麻痺して、受けつけなくなり、快感が弱まって、イライラが募り、やがてうつの状態になってしまうのです。こうなると、再び、「快感を得たい」と、更に強い、覚せい剤などの乱用薬物を求めるようになっていきます。
N これは、覚せい剤を投与されたマウスの実験です。妄想や幻覚におそわれて、変な行動をとっているのが、わかりますか。
人間も、危険ドラッグや薬物依存に陥ると、このように脳が破壊されて、幻覚や妄想にとらわれ、「依存症」という、取り返しのつかない症状に、陥ってしまうのです。
N やめよう、やめようと思ってもやめられなくなる依存症。
タバコ、アルコール、危険ドラッグ、ネット依存の恐ろしさが、わかったでしょうか? きょう学んだこれらの害を知り、
女子・男子 「健康な青春」に向かって、成長していきましょう!