もう“イラク人質事件”に対する「自己責任」論は冷めているかもしれない。しかし、私はどうしても記録に残しておかなければ、という切羽詰った気持ちでこれを書いている。
去る4月8日、カタールの衛星テレビ・アルジャジーラが日本人の人質3人の映像と共に「自衛隊が3日以内に撤退しなければ殺害する」という犯行グループの声明を発表。日本中がパニックに陥った。
3人の家族の切実な訴えも映像で伝えられ、毎日新聞(4/27付)『読者の声からみたイラク人質事件』によると、11日までは自衛隊のイラクからの撤退の是非を論じた意見が主流(70%が撤退賛成論)だったようだ。
ところが12日には撤退不要論に逆転。翌13日からは、撤退の是非論より人質や家族への批判、「自己責任論」が目立ち始める。
そして、人質の3人が無事解放された15日夜から16日にかけて、本人と家族へのバッシングは激しさを増し、18日の帰国時には「3人はPTSD(心的外傷後ストレス障害
)のため記者会見は無理」とのドバイの医師の診断どおり、憔悴しきった3人と家族の写真が新聞に掲載された。
私自身、フィリピン、ミンダナオ島南コタバト州の山奥で先住民族の子どもたちの識字運動に携わっていたころ、2派に分裂した民族の首長から首に山刀を突きつけられたことも、またラオス北部のホーチミンルートの寒村でベトナム戦争時の不発弾処理現場を取材。黄燐弾の煙を浴びて失明しかかった体験ももっている。しかし、私の裡なる使命感が止むに止まれぬ原動力となって危険地帯に踏みとどまらせたのだった。
だから3人の気持ちも行動も、政府や自衛隊ではなくNGOにしか果たすことのできない社会的責務があったと理解できる。外務省は4月17日、解放された3人の救出費の自己分担金を決めた。バクダットからドバイまでのチャーター機の運賃、ドバイでの診療代、宿泊費、帰国や家族の出迎えの航空運賃、しめて1人260万円になるそうだ。
日本政府の国際的な信用は地に墜ちるだろう。
蛇足ながら、小泉首相始め国会議員諸氏の年金未納問題は「自己責任」ではないのか。まったくムカツクことの多い日本の現状という他はない。
注 PTSD ; 心的外傷後ストレス障害 1980年前後に、ベトナム帰還兵が後々までも戦場での心的外傷を負ったことから、この概念が定着したといわれている。日本では阪神大震災後に、頻繁に報道された。 |