2004.8月

       
 

出生前診断から着床前診断へ──

   どうなる? 次世代の子ども!

 
 
 

「性を語る会」代表 北沢 杏子

   
       

 

 過日、(社)日本産婦人科学会倫理委員会の公聴会に行ってきました。医療技術の進歩に伴って、胎児に障害があるかどうかの情報が妊婦にもたらされる「出生前診断」は、女たちに産むか産まないかのつらい決断を迫られるものとなっています。ところが今回の公聴会では(報道で、すでにご存知かと思いますが)、「着床前診断」──つまり体外受精による受精卵の段階で障害(遺伝性疾患)のあるなしを診断し、障害のない受精卵を子宮に戻すことの是非を審議するというものでした。

 審議された2組の夫婦の場合、Aさんは承認、Bさんは非承認でしたが、Bさんの涙ながらの訴えや弁護人の強力な発言などもあってか、「さらに幅広い人の意見を聴いた上で学会として最終決定したい」という結論(藤井信吾会長)となりました。

 この訴えは2件とも筋ジストロフィーに関するもので、Aさんの場合は(母親が保因者)、ディシェンヌ型筋ジストロフィーの第一子が5歳になる現在も歩行が不安定で、病状は次第に進みつつあり骨格筋は萎縮傾向にある。第二子は着床前診断を受けて確認してから産みたいとの訴えで、承認されたわけです。

 ところが、Bさんの場合は、夫が筋強直性ジストロフィーの罹患者で、それが原因の習慣流産で辛い目にあってきた。こんどこそ着床前診断を受けて、生まれてくる子どもの顔を見たいとの訴えでした。さらにBさんはクリスチャンなので、宗教信条の理由で「出生前診断」による中絶はできない、だから、着床前診断を選ぶ他はないのだとの訴えです。

 ここで日婦会倫理委員会は、会告にある「重篤な疾患の場合のみ」承認と決め、Aさんの子どもは成人(20歳)前に死亡する可能性もあり「重篤」だが、Bさんの場合は成人後に発症するもので「重篤とはいえない」。従って不承認との判断になっていたのです。  これに対し『着床前診断実施についての声明文』を突きつけ、激しく反論したのが、着床前診断を推進する会・PGD会(患者夫婦21組、医師根津八紘、医師大谷徹郎、弁護士遠藤直哉)の遠藤弁護士でした。

 すでに7月11日の新聞(毎日新聞)によると、同会はその結成の経緯、および今秋頃から着床前診断を実施すると宣言。「法令で何ら禁止されておらず、患者は治療を受ける憲法上の権利がある」と主張し、着床前診断の経験が豊富なアメリカ・エール大学のサンチアゴ・ムネ助教授の協力を得て、日本で実施することことで合意した──とあります。

 しかし問題なのは、根津・大谷両医師がクライアントの要望によって「男女産み分け」も着床前診断で行なっていること。声明文には「合計特殊出生率(女性が一生に産む子どもの数)が1.29という危機的状況は、3人目以降の妊娠に際して男女産み分けを行なったとしても(略)社会の役に立ちこそすれ、害になることはない」と言い切っています。このように歯止めのきかなくなった医療技術の現状に、私たち女は、大きな声を挙げるべきではないでしょうか。

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