2004.9月

       
 

ヒトはなぜ、戦争をするのか?

 
 
 

「性を語る会」代表 北沢 杏子

   
       

 

  『ヒトはなぜ、戦争をするのか?』1932年、アインシュタインは国際連盟から、「現在、最も大事だと思われる事柄をとりあげ、最も意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」との要請を受けます。彼が選んだのは上記のテーマ、そして相手に選んだのはフロイトでした。この20世紀を代表する物理学者と心理学者の往復書簡(ナチスの台頭で握り潰された)という貴重な本を、私はいま、手にしています(書名は同上、編訳 浅見昌吾 花風社刊)。

  書簡が交わされた翌'33年、ナチズムが覇権を握りユダヤ人迫害が始まります。アインシュタインもフロイトも共にユダヤの血を引いているため、家宅捜査を受け暗殺の脅威すら感じて、アインシュタインはアメリカへ(これが1945年のヒロシマ・ナガサキ原爆投下に繋がるのですが)、フロイトはロンドンに亡命します。

  詳しいことは(紙幅の都合で)本書をお読みいただくとして、私見による要点を引いてみます。アインシュタインは戦争を回避する方法として「すべての国家が協力してひとつの機関を創り、その機関に国家間の問題(諸紛争)について立法と司法の権利を与え、機関の決定に全面的に従うこと」「国際的な平和実現のためには、各国が主権の一部を放棄して、自らの活動に一定の枠をはめなければならない」と書いています。

  これに対してフロイトは、「人間を戦争に駆り立てる動機は攻撃や破壊への欲求であり、破壊への衝動に理想(平和)のアピールが結びつけば、当然容易に破壊行動が引き起こされる」「理想を求めるという動機は、残虐な欲求を満たすための口実に過ぎないのではないか」と返信しています。

  日本ではいま、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー『華氏911』が上映中で、映画館は長蛇の列。このムーアによる揶揄いっぱいのブッシュ大統領批判は観客の溜飲を下げるのに十分です。ブッシュはアインシュタインが提唱した国連の言うことも聞かなかったし、フロイトの言う破壊行動の欲求を「イラクに民主主義を」という口実でごまかしました。

  日本も「憲法9条を改悪して国連安保理の常任理事国入りしたい」だって? 9条があったからこそ、私たちの国は60年間も戦争をしないでこられたのです。常任理事国になんか入らなくていいから9条を変えるな!──と叫びたい。

  フロイトは、こうも書いています。「では、すべての人間が平和主義者になるまで、あとどのくらい時間がかかるか、この問いには明確な答えを与えることはできません」と。

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