2005.2月
ユーゴスラヴィア・民族浄化のためのレイプ
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「性を語る会」代表 北沢 杏子 |
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『ユーゴスラヴィア・民族浄化のためのレイプ』(ベヴェリー・アレン著、鳥居千代香訳、つげ書房新社)は、1991年秋から93年の終わりまで続いた民族紛争、国家ぐるみのエスニック・クレンジングの凄まじいばかりのルポである。 セルビア兵は、民族浄化運動の一環として、クロアチア人の女性へのレイプを命じられた。国家から異民族を絶滅させるためにクロアチア人女性たちを逮捕し、『レイプ・死の強制収容所』に閉じこめて、一定期間組織的レイプを繰り返す。レイプしても妊娠しない犠牲者は殺害されるが、妊娠した犠牲者はそのまま収容され、ひどい精神的虐待や拷問を受けた後、中絶ができなくなった時点(妊娠6カ月以上)で釈放される。兵士はレイプしながら怒鳴る。「いいか、セルビア人の子どもを産むんだぞ」と。 一方、どうしてもレイプができないセルビア兵には、ポルノや麻薬の助けを借りて道徳的、倫理的抵抗感を喪失させ、レイプに必要な心理的身体的状況に追い込んだ後に強制。こうしてボスニア政府によると、35,000人の女性が妊娠させられた(クロアチア人の男性たちは、100ほどもある強制収容所で惨殺。民族の種を絶滅するために、お互いの睾丸をお互いに噛み切らせる拷問も行なったという)。 レイプ施政者たちは兵士に、レイプを実行する際は、「女を性的容器とだけみなせ」と命令したとある。同じ言葉を、私は元日本兵からも聞いたことがある。かつての日本の侵略戦争で、日本軍性奴隷制、いわゆる「従軍慰安婦」を買春に行くとき、上官は気が進まない彼に「女の顔に風呂敷をかぶせて、性的容器と思えばいいんだ」と言ったそうである。 いま、インド洋大津波で両親を失った孤児たちが「人身売買」に巻き込まれているとの報道が相次いでいる。これらの孤児たちは国際的なブローカーによって、セックスワーカー(性的容器)として売買されるのだろうか。女の子だけではない。かつてフィリピンの某空港には、男の子を対象とする外国人男性の買春ツアーが大挙して押しかけた。それを阻止しようとする反対運動の女たちのピケを、男の子の母親たちが阻除したという事件もあった。極貧の暮らしが、わが子を性的容器として提供せざるを得なかったのだ。日本でも昭和9年、大時に何万人もの農家の娘の身売りが行なわれていたことが写真と共に記録に残されている。 『リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)』が、カイロでの世界人口会議で採択されて10年になる。これこそが、両性ともがその性を人権として尊重する意識を高めるキーワードであろう…と考えたのも束の間、グアンタナモ米海軍基地で、米軍の女性尋問官が、対テロ戦争で拘束された「敵の戦闘員」に性的虐待尋問を行なっているとの報道を読んだ。 尋問の手法は妻以外の女性との接触を禁ずるイスラムの教えを逆手にとり、乳房を相手に擦りつけたり経血に見せかけた赤インクを相手の顔になすりつけるという暴挙で、男性は抵抗し泣きわめいたという。性は最も基本的な人権である──性教育の必要性を声を大にして叫びたい。 |