2005.3月
マータイさんが語る環境と平和
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「性を語る会」代表 北沢 杏子 |
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ノーベル平和賞受賞者でケニア・環境副大臣のワンガリ・マータイさんの講演を聴いた。色鮮やかな民族衣装に身を包んだ彼女は、ユーモアに満ち、パワフルで魅力と活力に溢れていた。今回は、マータイさんと会場との質疑応答の中から、特に印象に残った話のいくつかを記したい。 Q きょうのテーマは『環境と平和』ですが、環境と平和はどのように関連があるのでしょうか? A 現在、世界各地で民族紛争が起こっていますが、紛争の原因の殆どは資源の奪いあいによるものです。アフリカを例にとるなら、国土の砂漠化によって、放牧地は乾燥し、井戸は渇水、日々の食料にも事欠く状態になって、農地を奪いあう。これが紛争の発端です。資源は有限であることを世界中の人々が認識しなければなりません。そして、すべての資源は責任ある公平な分配によらなければならない。一部の国、一部の資本が資源を私有化することは平和を破壊することです。 Q マータイさんが当時、アフリカでは難しい女子の高等教育を受け、アメリカに留学できたこと、それが今日のグリーンベルト運動、そしてノーベル平和賞に繋がったと思うのですが、その経緯は? A 私が幸いだったのは母親や地域の人々が女子の教育に積極的だったこと、そして、よい教師の励ましがあったからです。アフリカでは女の子は男の子より下位に見られていますが、女の子として入学した私は、男の子よりずば抜けて成績がよかったのですよ(笑)。この事実によって「女の子をすべて学校へ」という意識が広まりました。1959年〜60年、「(植民地から独立する)ケニアの若者をアメリカに留学させよう。そして、戻ってきて新しいケニアの発展に尽くしてほしい」という民意と政策によって、300名の若者がアメリカに出発しました。こうして1960年から4年間、私はカンザス大学で学ぶ幸運をつかんだのです(ケニア独立は、1963年)。 Q 8万人の女性が参加し3,000万本もの苗木を植えたマータイさんの環境教育の実際とポイントは? A 農村の女性たちの識字率は低いので、難しい話はしません。まず100人以内のグループにセミナーを行ないます。そして「毎日直面している問題は何ですか」と聞く。すると、清潔な飲料水がない、燃料の薪がない、食糧がない、子どもの教育費がない、日用品を買う現金収入がない、とさまざまな不平が出てくるので、それを紙に書いて貼ります。「これらの問題は、何が原因でしょうか」と訊くと、行政が悪い、政府が悪いという声が出てきます。 そこで、もう一度、原点に戻って、それぞれの意識や態度、例えば政策に無関心だったり、積極的に意見表明をしようとしなかったのでは?と問いかけると、女性は自分たちにも問題があったことに気づきます。「では、実行可能な解決策として自分たちに何ができるか」と考え始めるのです。 彼女たちは、すぐできるこから始めました。森へ種を探しに行き、自分の畑に苗床を作って種を蒔きます。苗木が育ったら自分の畑のまわりに植えていきます。 もともと、彼女らのものだった畑は、国外の資本や企業によって換金樹園(コーヒーなど)に奪われてしまっています。それにめげずに、広大なプランテーションの周囲の畦道のような土地に苗木を植えるのです。これがグリーンベルトのように見えるので、「グリーンベルト運動」と名づけました。 苗を植えたい人々が増えていきます。アフリカの男たちは手を汚すのが好きじゃあないんですが(笑)、土に穴を掘らなければ、女が育てた苗はあげません(笑)。やがてコミュニティ全体の男たちも穴を掘って苗を植えるようになり、こうして運動は全土に広がっていったのです。 私の「3つの言葉」は、コミットメント・忍耐力・前進する──諦めたら、そこですべては終わりです。 |