2005.4月

       
 

サンタバーバラの白い十字架

 

 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
 

 サンタバーバラは、ロサンジェルスから150キロほど離れた美しい海辺の街だ。しゃれた店やレストランなどが並ぶ商店街は、いつも観光客で賑わっている。このサンタバーバラの海辺に、昨年の11月から毎週日曜日、夜明け前に起きて白い十字架を立てるグループがいる。

 この人たちは、平和のための退役軍人VFP(Veterans For  Peace)サンタバーバラ支部のメンバー。彼らは黙々と、砂浜にグリッド(針綱の筒)を埋め、注意深く十字架を立てていく。その数は日増しに増えていく。そう、イラクで戦死した若いアメリカ兵の数にあわせて。

 報道によると、‘05年3月21日現在で戦死者は1,520人。メンバーは、街の人々や観光客がビーチに出かけてくる前までに、この作業を終わらせる。そして1日中そこに佇んで、人々の質問に答え、悲しみを分かちあい、無念のうちに死んでいった若い兵士のために祈る。

 イラク北部モスルの米軍基地で起きた自爆テロで息子を失った元兵士の母親は、白い十字架を眺めながら「息子はこの戦争に疑問を持ちながら死んでいった。今すぐ戦争を終わらせなければ…」とメンバーの1人に語った。十字架の傍に立てられたプラカードには、「イラク市民の死者を追悼するなら、このメモリアルの数は100倍にも200倍にもなる」と書かれていた。

  メールでこの情報と写真を届けてくれたロス在住の友人、Jay イナエはいう。「メンバーは、たくさんの"涙”にどう対応するか心得ています。そして、頻繁に訊ねられる"なぜ?”という質問にも」と。このプロジェクトは、その後、サンディエゴ、サンタモニカ、フォードメイヤーズ、アルバーなど、全国の都市に広がっているという。私はここに、アメリカの良心を見る。

 折も折、アナン国連事務総長は3月20日、国連改革に関する勧告を公表した。『より大きな自由の中で』と題された計63ページに及ぶ勧告は、1.欠乏からの自由 2.恐怖からの自由 3.尊厳をもって生きる自由 4.手段行動への要請・国連の強化と大きく分けられるが、地球上の貧富の差はあまりにも大きい。

 ノーベル平和賞受賞者でケニア副環境相のマータイさんは、国連本部で開かれた『女性の地位向上委員会』の席上、9.11同時多発テロ事件に触れ、「不公平や不正義、自由が抑圧され、地球上の有限な資源が公平に配分されていないと感じる人たちが、不満を募らせた結果だ」と指摘。「自分たちは無視されたと感じたり、虐げられていると感じることがない世界を目指そう!」と訴えている──ロスの友人と私は、以前にはなかったこんなメールをやりとりしている。

 
 

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