2005.8月

       
 

第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議から見えてきたもの ─その1─

 

 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
 

■移動労働者の性の権利とSEXワーカー(性産業従事者)の権利
 去る7月1日から5日まで、神戸で開催された『第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議』に参加して、脳天を叩き割られるほどのカルチャーショックを受けたのは、上記の2つの権利についてだった。ちなみに、今回の会議には77カ国3,500人が参加したが、その中にはHIV陽性のSEXワーカーやそのサポートグループも大勢いて、各セッションでの発言とエイズ予防キャンペーンは、熱気溢れるものであった。

 国際エイズ合同計画(UNAIDS)のピーター・ピオット氏は、開会の挨拶で、SEXワーカー・薬物注射使用者、MSM(男性とSEXをする男性)に言及。また、エイズ動向監視ネットワーク(MAP)も、「この3つのグループは完全に区別できるものではない」と強調した。つまり、いままで考えられてきた薬物の注射器・針共用による感染、買売春による感染、MSMによる感染は、それぞれ別の集団としてリスクを特定すべきではなく、男性と性行為をする男性は女性も買春するし、女性のSEXワーカーは薬物注射もする。薬物注射使用者も買春をするというのだ。特にあへんアンフェタミンなどは、「黄金の三角地帯」周辺では、安価で容易に入手できることから、東南アジアや中国での薬物使用者は爆発的に増えており、いまやHIV/エイズは、その中心をアフリカからアジアに移したと言っても過言ではないようだ。※ミャンマー・ラオス・タイおよび中国の国境地帯。けしの不正栽培とヘロインの製造地帯。

 SEXワーカーネットワーク代表の代理、キャロル・ジェンキンスさんの主張 は、つぎのようなものであった。

 工業先進国では、東南アジアの若い男たちを移動労働者として3K(嫌われる仕事)に就かせているではないか。先進国の経済は、彼らの労働によって支えられているといっても言い過ぎではあるまい。彼ら独身の若い男たちが、買春をするのは当然である。これを違法・非道徳として取り締まれば、売春組織は地下に潜行してHIV/エイズの温床となる。

 これに対して、フォーマルな(法規制のない国の)SEXワーカーはHIVの予防に貢献していると言える。フォーマルであれば、政府とNGOの協力によるエイズの最新情報の提供、コンドームの配布、麻薬の注射針の交換、定期健診なども受けられるし、予防の知識を身につけたSEXワーカーが男の客の健康を管理し助言を与えることもできるだろう。これこそが、現実に即したエイズ蔓延の予防策である。

 ところで最近問題なのは、インターネットや携帯による個人売春の拡大だ。かつてはSEXワーカーズ・スポット(売春婦の集まる場所)に行って、アウトリーチを行なえば予防効果が上がっていたのだが、現在では、カラオケダンサーやマッサージパーラーなど、察知不可能な売買春が増え、アウトリーチが困難になっている──と。

 エイズ蔓延の最も大きな原因は、アジア・太平洋地域住民の貧困である。エイズ予防対策としては、まず少女たちに義務教育の徹底を! そして、売春規制の、より幅広い、ゆるやかな法的措置、SEXワーカー自身が主導権をもち、HIV/エイズ予防のための健康保険の受益者となること、コンドームはもちろん、抗レトロウイルス剤・抗殺菌剤の無料配布を受ける権利、中間搾取者の排除、社会の一般市民がエイズおよびSEXワーカーへのスティグマ(恥・偏見・差別)をなくすことなど──なすべきことは山積している──というのが、報告者たちの主張の主流であった。  (来月号へ続く)

 
 

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