去る7月1日から5日まで、神戸で開催された『第7回アジア・太平洋会議』に参加して、アジア特有のエイズとその対応への政策、支援のあり方を痛感させられた。以下は先月の続きである。
■ブッシュ大統領のアジアへの影響
ブッシュ大統領の政策と影響力は、いつでも、どの会議でも持ち出されるが、今回の『アジア・太平洋地域エイズ国際会議』でも、タイの「SEXワーカーサポートネットワーク」のチャント・ノリスさんは、怒りと共に報告した。以下は彼女の話の要約である。
タイのSEXワーカーのスポットは、チェンマイ、バンコク、プーケットと北から南まで全国的に存在する。私は20年来、各地のSEXワーカーのヘルスケアサポートを行なってきた。4年前、ブッシュ大統領は「売春禁止法」を制定した。『テロと麻薬密売組織とSEXワーカーは関連している』との論法によるものだ。
アジア・太平洋地域の各国は、アメリカの影響をモロに受ける。タイの場合も、タクシン首相はアメリカのブッシュ大統領に習って、最近、ミャンマーから越境してきた20人の女性を逮捕した。こうして、タイ国内でも売春防止法賛成派と反対派の対立が顕著になった。われわれのアドボカシーセンターでも、SEXワーカーのHIV/エイズ感染に対して、助けたいグループと自業自得だとして反対するグループに分断された。
タイ政府によるSEXワーカーサポートネット(NGO)への基金も絶たれ、支援は不可能になった。HIV/エイズ陽性者たちも同じ人間なのに、『人間としての健康の権利』までもブッシュとタクシン共同体によって奪われ、一般市民によるエイズ差別も復活した。
タイはまた、100万人以上のHIV/エイズ患者・感染者がいるところから、「治験」という名のエイズ治療薬臨床実験場と化している。HIV陽性のSEXワーカーはモルモットのように試験薬の対象とされ、アメリカ製薬企業の儲けに貢献させられている。アメリカとアジアの関係は、『(女を)夜は愛し、朝は憎む』というハリウッド映画のストーリーそのものと言えるだろう。
■ストリートチルドレンへの性教育とその効果
国とも、ストリートチルドレンの麻薬注射使用によるHIV/エイズ感染問題が、大きな課題となっている。以下は、インドの地域コーディネーター、プルカヤスタさんによる報告の要約である。
インドは交通機関の主たるものが鉄道なので、ストリートチルドレンは『ベンガル鉄道の子どもたち』と呼ばれ、駅舎やプラットホーム周辺に約30万人もが住みついている。
少女は人身売買ブローカーの好餌となって移動してしまうため、大半は少年だ。この子どもたちは、親に捨てられた子、虐待された子、アルコール依存症の親の子、避難民の移動途中で家族とはぐれた子どもなどで、旅行客の靴みがきや駅舎付近に捨てられたプラスティックボトル拾いなどをしながら、駅舎から駅舎へと移動している。この子どもたちのHIV感染源は、年長者からの性虐待でうつされた例を除き、ほとんどが麻薬の注射器・針の共用である。
この子どもたちへの支援を行なうには、まず子どもたちと信頼関係を結び、性虐待の意味と、それぞれが持つ「性の権利」を学ぶことから始める。文字の読み書きができないので、パズル・歌・詩・演劇・絵を描くなどによって、その創造性を呼び起こし、エイズ予防に最も必要な性教育を行なっている。インドは年中行事の多い国なので、例えば祭事の物語りを、「女神(予防)が悪魔(HIV)を倒す」劇として演ずれば、理解が得られることが実験的にわかった。
「ホリ」と呼ばれる春祭りは、「春=思春期=二次性徴」と関連づけて、パフォーマンス(ロールプレイ・ボディペインティング)や、ワークショップ(グループセッション・心理カードなど)のツールを使って、楽しみながら、性教育を行なっている。例えば、「ホリ」は農作物のための降雨を祈る祭りでもあるので、雨を月経や射精に結びつけて話すなどである。(来月に続く) |