去る7月1日から5日まで、神戸で開催された上記の国際会議に参加して、アジアの国々が、その国の政策や宗教、文化によってHIV患者・感染者への処遇も対策も異なっていることを痛感。タイ、インドのNGOの方々の報告をお伝えしてきた。
以下は先月に続き、薬物注射などでHIV感染が広がっているインドの、『ベンガル鉄道の子どもたち』と呼ばれる30万人ものストリートチルドレンたちの現状と、その意識・行動の変容を促すことに成功したプルカヤスタさんの報告の続きである。
われわれの支援の信念は、『できることから始めよう!やりながら方法論を見出そう!』である、とプルカヤスタさんは言う。前月で述べたように、さまざまな試行錯誤の後、ストリートチルドレンは、自分たち自身で「少年協議会」を立ち上げた。そこで、われわれは一歩引いて、鉄道員組合に協力してもらうことにした。
組合は、子どもたちにIDカード(身分証明書)を発行し、その移動状況を、6つの駅でモニタリングできるようにした。彼らが希望すれば、シャワーを使う、テレビを観る、寝る場所を提供するなどのサポートも開始した。3年前は、年長の子が年下の子の持ち物を奪ったり殴ったりしていたが、いまは年長の子が年下の子をいじめることについて討議している。子どもたちの犯罪も46%までに減った。乗客の忘れものの紛失も25%までに減った。急いではならない、できることから始めよう!やりながら方法を見出そう!だ。
■セクシャリティの尊厳をぶちのめす宗教国家
ネパールの男性同性愛者の人権問題に取り組むNGO代表スニルさんの報告も衝撃的だった。この国の宗教がもたらした父権制社会は、「女性およびセクシャルマイノリティの人権をまったく認めていない」と彼は訴えた。以下は彼の報告の要約である。
わが国の宗教は、ひたすら「禁欲」を説いている。喜びのためのSEXは認めない/結婚以外のSEXはもちろん、同性間のSEXは認めない/例外としてバイセクシュアル(両性愛者)のSEXは認める。女に子どもを生ませることができるからだ/マスターベーションをする男は弱虫だ。男らしい者だけがSEXをする権利がある/子どもを生ませることができても、妻に男の子を生ませることのできない男は、死後の火葬のときの薪に誰が火をつけるのだ?(男の子が火をつけるらしい)。女性、とくに月経中の女性は汚れている/女は天国にはいけない/生殖を伴わない性同一性障害者の性転換手術は認めない/ゲイ(男性同性愛者)は僧にはなれない/ゲイは学校でも差別されるため、中退せざるをえず、高学歴が得られない。
彼は、警察によるゲイ虐待の残酷なスライドをスクリーンに映しながら、訴えた。
宗教はセクシャリティの自由を認めない/政府は同性愛禁止のキャンペーンを展開している/女性、とくにフェミニストは攻撃のターゲットにされる/ゲイ・レズビアン(女性同性愛者)は異性との結婚を強要される/女性には、祭祀および財産相続権はない/妻は夫に虐待されても文句を言ってはならない/二人続けて女の子を生む妻は離婚される/夫がエイズで死ぬと、妻に悪魔が宿っているからだと、火をつけられた事件もあった……。
ただただ、あきれるばかりの報告である。彼自身もゲイで、差別・偏見のまっただ中で運動を続けるスニルさんの結論はこうだ。まず必要なのは性教育である。教育制度の中に、性の多様性を教えることを義務づけるべきだ。それぞれの性アイデンティティを認めることこそ、民主主義国家の出発点である。周縁化された女性の権利、ゲイ・レズビアンの権利の復権とエンパワーメント──それがHIV/エイズの蔓延に歯止めをかけることに繋がるのだ!と。
以上、国際エイズ会議報告を(やや感情的筆致に陥ったきらいもあるが)聴き耳を立てて各分科会を駆け回ったレポートだ。このレポートでアジア・太平洋地域特有のエイズの問題点が少しでも伝えることができたら幸いである。
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