小学生に珠(算)教育──あ、いいなあ!と思って新聞をよく読むと、小学生に株教育だった。ライブドア事件に懲りもせず、政府と証券業界は「貯蓄から投資へ」を推進するべく、子ども向けの「投資教育」を展開。これを授業に取り入れる学校もちらほら。参加した小・中学生に投資資金10万円を用意する証券会社も現れた。
去る1月6日、ネット専門の証券会社M証券が開いた「株のがっこう」で、同社社長は「きみたちに、いま、お金があったら、どのように使うか想像力を養ってもらいたい」と挨拶。ホームページでの募集に応じた小学5年生から中学3年生28人が参加。まず、「上手なお金のふやし方」で、具体的な株式投資のノウハウを学習。つぎに投資体験スタート──応募した28人の子どもたち名義の口座には、同社から10万円が振り込まれ、「投資体験後の損益はお子さま方に帰属します(つまり、もうけも損も自己責任)」との注意書きがHPで伝えられたという。
「非教育的、反教育的、ストップすべきだ」という有識者の声に対し、業界団体の日証協は「親権者の同意があれば、未成年者でも株式の売買は法的に可能」と強気だ。日証協も体験投資の「子ども向け教育プログラム」を運営。W総合的な学習”やW社会科の授業”を利用し、現在全国で、1,350余校が参加しているとか。発達段階を無視し、ゲーム感覚でマネーゲームに取り込まれる次世代の担い手の大脳はどうなるのか?考えただけで眼が点になりそうだ。もっとも、「選択肢が広がって、いいんじゃなーい?」という親の声も聞こえる昨今だが。
同じころ、テレビで小学生に囲碁のトレーニングを行なう場面を見た。小学校5年生くらいの女子2人の頭には、それぞれMRIの画像に接続する装置がつけてある。少女2人が交互に碁を打つたびに、ディスプレーに映し出される大脳の前頭前野が、活性化し赤くなる。打ち終わって一呼吸すると青に変化するが、たちまち赤く変わる。それは相手の顔や態度、指先の動きを凝視する瞬間だ。
解説者によると、同じ碁のトレーニングでも、人と人が相対する囲碁と、パソコンの囲碁ソフトを相手にした場合をくらべると、前頭前野の活性化と沈静化のリズム、活性化された前頭前野の面積は、後者のほうが格段に落ちるという。ちなみに、大脳の前頭前野の部位が赤くなるのは、情報処理に関する内因性の賦活、つまり思考の過程の現われである。前頭前野の機能が高度であればあるほど、人間は情報処理と思考に高い能力を持つ。
同じころ、就職する意思も持たず、終日ただひたすらネット上での株の売り買いをしている青年の姿をテレビで見た。彼が口にするのは、「きょうは何百万円儲けた」「損した」のみで、ボキャブラリーの貧しさが気になった。かつて、産業戦士の夫たちが、終日、企業の業績を上げることに専念し、家に帰ると「フロ、メシ、ネル」の3語しかボキャブラリーを持ちあわせなかった時代があった。
いま、小学生のうちから株教育を受け、青年になるとマネーゲームに熱中して、人と人との対話、ことばのかもし出す楽しさを、自ら放棄してはばからないことに、無念の感情を抱くのは私だけであろうか。
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