2006.6月

       
 

戦前の「治安維持法」そっくりの、新設「共謀罪」法案

 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
 

 去る3月、小林多喜二没後70周年記念のドキュメンタリー映画『時代(とき)を撃て!多喜二』を観た。
 多喜二は左翼作家として、当時の治安維持法で逮捕され、1933年3月、警視庁特高の拷問により惨殺された。治安維持法は1925年に制定。'28年6月、緊急勅令で「改正」を強行、国体護持に反する者は最高刑の「死刑」、「目的遂行のためにする行為」も、処罰の対象とされた。共産主義・社会主義・無政府主義に共鳴する者同士が何人かで食事するのも、散歩するのも、「目的遂行のためにする行為」と見なされる──というのだから怖い。

 多喜二の映画の中の10人の証言者のうち、シカゴ大学のノーマ・フィールド教授の「アメリカのアルグレイブ収容所での事件やグアンタナモ基地でも拷問があったわけで、拷問というのは非常に現代的な問題でもあるのです」という言葉に背筋が寒くなった。
 テロ容疑者の収容所での拷問といえば、「アメリカが海外(ポーランド、ルーマニア他)に収容所を設けている」という報道('05年11月)は記憶に新しいところだ。この報道について米中央情報局(CIA)が、「新聞記者に情報を洩らした職員を摘発するため」として、ABCニュース、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストの記者がかける電話を追跡していることが判明した。
 9.11同時多発テロ後、アメリカは愛国者法を導入、米連邦捜査局(FBI)は、新聞記者たちの通話記録の入手も「愛国者法1条によって合法」だとして、捜査を開始したという。さらに米国家保障局(NSA)は、メディアどころか米国内のすべての電話の通話記録をデータベース化した。NSAに協力した最大手電話会社三社の利用者数は2億人にのぼるというから、プライバシーの侵略もはなはだしい

 日本の政府・法務省提出の新設法案「共謀罪」は、「犯罪(適用対象となる犯罪619種)の実行がなくても相談し合意したと見なすだけで処罰できる」というものだ。これが与党によって強行採決されれば、一般の会社員や労働組合、宗教団体、NGO……いや、私たち女の勉強会なども、なにかの犯罪の共謀を口実に検挙されないとも限らない。さらに、共謀の事実の証拠をつかむための捜査手段として、米国のように電話などの盗聴やスパイの潜入ということにもなりかねない。
 そう考えてくると、教育基本法を改悪して、子どもたちに愛国心を刷り込もうとしているのも、米国に倣って日本愛国者法を導入しようとしているのでは?と勘ぐりたくもなる。政府はいま、この共謀罪の詳細が広く一般市民に知れ渡るのを恐れるかのように、そそくさとおざなりの議論をしただけで採決に持ち込もうとしている。

 ふと、20数年前の旧ソヴィエト時代のチェコスロバキア・プラハ市で取材したときのことを思い出した。
 知人の家に若い男女数人に集まってもらい、私の専門分野である性教育の実際について座談会を開いたのだが、3人以上集まると、当局から「共謀罪の疑いをかけられる」というので、窓のカーテンをぴちっと閉じ、若者たちも時差的に一人、二人と集まったのだった。もちろん、大声で話したり笑ったりできないという息苦しい取材であった。こんなことになったら、どうしますか? 私たちは危機感を持って、共謀罪新設に反対し、強行採決の自制を求める運動を起こさなければ、と思いませんか?

 
 

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