2002年春、ブッシュ政権の新しい「教育改正法案」が議会を通った。落ちこぼれゼロ(No Child Left Behind Act)法案と呼ばれるこの改正案の目的は、“全米の高校から中退する生徒の数をゼロにする”という結構なもの。ところが教育庁のホームページを読むと、びっしり書かれた条項の中に1行「すべての高校は生徒の親から特別な申請書が提出されない限り、軍のリクルーターに生徒の個人情報を渡さなければならない」とあるそうだ(堤 未果著『報道が教えてくれない アメリカ弱者革命 海鳴社 刊 より)。
各州の教育委員会は、すべての州立高校にこの法案に従うように通達を出した(拒否した場合は、政府からの助成金が打ち切られる)。軍に提出される生徒の情報には、名前、住所、国籍、親の職業、市民権の有無、入学以降の成績、そして携帯電話番号までもが含まれる。
前述の法案の中には「軍の関係者が、職業説明のために生徒と接触する許可を義務づける」という条項も明記されているから、早速、軍のリクルーターが、成績が悪く、家庭が貧しく、大学進学の望みのないマイノリティの生徒に面接にやってくる。1.軍に入隊すれば大学費用は全額、軍が支払う。2.軍の医療保険が家族にまで適用され、除隊した後も退役軍人用クリニックで、生涯無料で治療を受けられる(ちなみに、米国には国保制度がなく、民間の保険会社の医療保険に加入していない者は、約4,600万人いる)。3.ビザを持っていない移動労働者の息子であっても、入隊と引きかえに市民権が得られる等々。リクルーターから渡されたパンフレットには、陸海空軍の征服に身を固め、きりっとした兵士の顔写真を背景に、祖国のために働くヒーローたちの文字がまぶしい。15歳から18歳の貧窮家庭の少年たちが飛びつきたくなるのも当然だろう。こうして「改正教育法」は、イラクへ送る兵士を製造(!)しているのだ。
さて、日本でも安倍新内閣が発足。先送りにされていた教育基本法「改正」を、最優先に可決しようとしている。とくに教基法第10条、教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行なわれるべきものである、を変えれば、有無を言わさず不当な支配をしてくるに違いない。
去る9月21日に、教育現場での「君が代・日の丸の強要」は、憲法19条が保障する思想・良心の自由の侵害だとして、原告側(東京都の高校・養護学校教諭401人)が勝訴した画期的な「予防訴訟」も、教基法が「改正」されれば、たちまち被告側(都教育委員会)の逆転勝訴となるだろう。現に、この判決に対して石原都知事は「当然、控訴しますよ。あの裁判官(難波孝一裁判長)は、東京の学校、特に都立高校の実態というのを見ているのかね?(お忍びで見に行ったとか)」と言い、“規律を取り戻すために国旗掲揚・国歌斉唱等の統一行動は必要”と威丈高だ。
新聞によると、東京都のある小学校では、卒業式の1週間前から毎日、国歌斉唱の予行演習を行ない、担任や音楽教師が「もっと大きな声で」「指が3本入るまで口を大きく開けて」歌うよう指導。「そうしないと先生が教育委員会に叱られるんだよ」とまで言うそうだ。
加えて、東京都では「習熟度(能力)別」によるクラス分けや、学力一斉テストが行なわれるようになって久しい。これも、“諸外国に負けない学力を身につけさせるため”であり、“高校生のドロップアウトをなくすため”との教育委の親心とか言われてはいるものの、なにやらブッシュ政権の落ちこぼれゼロ法案と同じからくりでは?と勘ぐりたくもなる……と、ここまで書いてきたら、都立高校3年生全員に、個人名で送られてきたという往復はがきのコピーが届いた。『高卒者等自衛官募集案内――安定した地位(国家公務員)、やりがいのある職場、有利なチャンス!あなたもこの国のために働いてみませんか?』。安倍新内閣は“愛国心”の養成に熱心だから、コワイ!
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