外国人女性の人身売買の手口で、近年激増しているのが、偽装結婚によるものだという。前月に引き続き、国連大学での、「人身売買をなくすために――被害者保護と自立支援」シンポジウムの様子を報告する。 被害女性支援のシェルター(NGO)スタッフによる聞き取り調査例は、驚くばかりのものだった。「村に人身売買のブローカーがいて結婚相談所を開いており、結婚相手を探している日本人男性に200〜300万円を払わせて、女性が大勢集められている部屋の中から好みの女性を選ばせ、その日のうちに結婚届けを出すシステムだった」「集団見合いに誘われたときは、日本人と結婚すれば故国の家族に“毎月6万円も送金できる”と言われ、その気になった」「日本人と婚姻手続きを済ませ、配偶者ビザで来日すると、すでに日本人の夫といわれる男にソープランドに売られてしまっていた。パスポートも取り上げられたため逃げるわけにもいかず、ソープランドでは、研修の名目で売春を強要された」などなど。
彼女らは“管理売春”のもと、逃げようとすれば見せしめのリンチ、薬物注射を打つ、食事を与えない、客がコンドームを嫌がれば従うよう強制。拒否すれば罰金や罰則(監禁)を課すなどの人権侵害を日常的に受けていた。その結果、精神障害、妊娠と中絶の繰り返し、HIV / AIDS感染の例も多く報告された。
加えて日本では「定住」以上の在留資格がなければ生活保護が適用されないため、被害者のほとんどは医療費が払えず、未払いを理由とする医療機関の診療拒否に遭って、悲惨な状態のまま、“かけ込み寺”である民間のシェルターや支援機関に逃げ込んでくるという。
現在日本には、約30ヵ所の人身売買被害者支援施設と150人の支援スタッフがいて、彼女たちの精神的・身体的被害のケアに当っているが、法制度が確立していないため、政府からの助成金が受けられず、寄付やボランティアに頼る他はない。更に、被害女性の収容期間も2〜4週間から、長くて2〜4ヵ月。その後は「入国管理法」により、自国へ強制送還される。心身に深い傷を負ったまま無一文で強制送還された彼女らが、故郷の親元に戻れるはずもなく、自国の都市で性産業に就くか、探し出されたブローカーから借金の催促をされ、リピーターとして再び日本に密入国する以外に方法はないとも聞いた。
当日のシンポジウムには、ゲストスピーカーとして英国から2人の人身売買犠牲者支援センター(NGO)代表が来日していたが、英国では法整備のもと、政府から、2年間で5億3,000万円の助成金が支給されているとか。宿泊施設もブローカーをシャットアウトする安全な場所で、8ヵ月〜1年間の滞在が認められ、その間にカウンセリングはもとより、職業訓練も受けられる。同時に、摘発された人身売買のブローカー(正しくはトラフィッカー※)が裁判にかけられた場合は、証人として証言台に立つトレーニングも行なわれている。こうした、犠牲者への手厚い支援が、日本と同じく“受け入れ国”であるイギリスの義務だと発言するお二人の前に、私は恥じ入る他はなかった。
日本でも遅ればせながら、2004年12月、入国管理法、被害防止法の一部改正が行なわれた。逃げてきた被害女性たちを、売春防止法制定(1956年)のとき設けられた「婦人相談所」の施設に収容し、「委託費と医療費を支給している」と厚生労働省の方が発言していたが、そこには人権侵害の意識の片鱗もみられなかった。
被害者保護と自立支援のための政府とNGOの協力による人権侵害への自覚と、一般市民への啓発活動の重要性をかみしめる1日であった。
※ human trafficker=人身売買人 / human traffic , human trafficking=人身売買
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