2006年12月末で退任したアナン国連事務総長は、『お別れ記者会見(12月19日)』で、「イラク戦争を阻止できなかったのが“最悪の時”だった」と語り、“有志連合(日本を含む)”で戦争に突き進んだブッシュ政権を批判。「国家には自衛権があるが、国際社会への広義の脅威に対処するときに、行動を許可する正当性を備えているものは安全保障理事会だけだ」と。そして、イラク戦争の教訓をどう考えるか?については、開戦に加わった国、加わらなかった国、戦争を支持した国、承認を与えなかった安保理のみなが教訓を得ているとも。
確かにそれぞれの国が教訓を得ているはずだ。イラク戦争は失敗だったと。だが、開戦の言いだしっぺの米国は、意地でも失敗を認めようとしないばかりか、つぎは「イラン攻撃」へと勇み足。米国防総省と米軍の当局者は「ペルシャ湾への空母打撃群の追加に着手した」と説明。泥沼状態がますます加速するイラクの状況に対しても、ブッシュ大統領はワシントン・ポスト紙のインタビューで、「“対テロ戦争”というイデオロギー戦争は、しばらく続き、その努力を維持し、平和樹立の一助となる能力のある軍隊が必要だ」と、陸軍と海兵隊の定員(現在、イラク・アフガンに52万2千人)を増やす必要がある――との考えを表明している。
さて、連日のように報道されるイラクでのシーア派、スンニ派の紛争を読み、まずは同じイスラムという信仰の中でシーア派とスンニ派が対立するのはなぜか?を解くことから始めようとして、何冊かの本を読んだ。『イスラムからの発想』大島直政著(1981年 講談社現代新書)、『イスラム世界と欧米の衝突』宮田律著(1998年 NHKブックス)、『イスラームにおける女性とジェンダー〜近代論争の歴史的根源〜』ライラ・アハメド著(2000年 法政大学出版局)、『ペルセポリスT――イランの少女マルジー―』『ペルセポリスU――マルジ、故郷に帰る――』マルジャン・サトラビ文とイラスト(2005年 パジリコ)、『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー著(2006年 白水社)の6冊だ。
この6冊のうち、『イスラムからの発想」の著者、大島直政氏は私が“トルコを旅しよう”と思い立ってトルコ語を習った先生で(残念ながら若くして亡くなったが)、まだイラク戦争など始まるずーっと前の1981年に書いているのだから着眼点がすばらしい。トルコ語を習ったおかげで、イスタンブールからイズミールまでレンタカーを走らせて15日間の旅をした(1977年)こともあって、この本から引用した豆知識を紹介したい。
大島氏の解説では、スンニ派とシーア派の違いは、日本で言えば仏教徒を大乗仏教派と小乗仏教派に大別するようなものだそうだ。スンニ派によれば、スンニとは「預言者ムハンマドの言行に従う者」という意味であり正統派。シーアとは党派のことで、いわば別派だという。一方、シーア派の言い分は、ムハンマドが死ぬと、合議制で選出されたカリフが後継者となる決まりであり、ムハンマドの娘婿で徒弟でもあるアリが4代目のカリフとなったが暗殺された。このアリの遺児でムハンマドのたった2人の孫であるハサンとフセインも次々と毒殺されたり戦死したりで、直系は絶えてしまったが、預言者の血統を重んじる人びとは、アリ・ハサン・フセインの3人を殉教者として、シーア派を結成し、拡大の一途を辿ってきた。
大島氏は、両派の衝突は宗教争いではなく、「政教分離」を考えることさえ不可能なイスラム信仰にあると述べている。堅苦しい記述になったが、次号では「イスラムと女性」について続けたい。
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