2007. 2月

       
  イスラム女性のヴェール着用 ―― 是か非か?  
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
   

 先月、私が読んだイスラム世界についての本6冊のうち(1月号参照)、『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー著(2006年 白水社)を紹介したい。本書は、欧米で文学を学び、故国のテヘラン大学で欧米文学教授を務めていた著者が、1979年のアーヤドッラー・ホメイニ師を中心としたイスラム革命からの18年間、超保守的な政権の下、特に女性たちに加えられた抑圧と恐怖、屈辱に耐えながら、数人の女子学生たちをひそかに自宅に集め、国家監視員の眼をかい潜って、禁書『ロリータ』を読む話である。

 ホメイニ師のイスラム革命で、国の戒律がどのように変わったか?本書の中の一文を例にとると、「20世紀初頭のイランにおける女性の結婚最低年齢は、イスラム法に定める9歳から、13歳に変更され、のちに18歳に引き上げられたが(略)、革命後は家族法が『改正』され、結婚最低年齢は再び9歳(満8歳6ヵ月)に引き下げられた」「姦通と売春は石打ちによる死刑と定められ、女性は法律上、男性の半分の価値しかないとみなされた」と、驚くべき規律の数々が述べられている。
 ナボコフ著の『ロリータ』も、幼児愛嗜癖ものとしてではなく、暴虐ともいえる圧制に絡め取られた革命後の女性の運命と重ねあわせて、男によって、子ども時代と人生のすべてを奪われた犠牲者としてのロリータの、その脆さと孤独に焦点を絞り込むといった、一般論とは全く異なった解釈の講義になっているところが興味深い。著者自身も1981年、ヴェール着用を拒否して大学を追放され、現在はアメリカ、ジョンズ・ホプキンス大学に在職している。

 イスラム女性のヴェール着用をどうするか?フランスでの『公共の場でのスカーフ禁止』論争から2年余り、移民女性のヴェールをめぐっての論議が、全欧州規模で広がっている。たとえば英国イングランド北部、ウェストヨークシャーの小学校の英語の補助教員が、ヴェールをぬぐことを拒否し停職処分となったという。彼女は目だけを出して顔全体を覆うヴェール(ニカブ)を着けて授業を行なっていた。学校側は「英語教育には表情や唇の動きを見る必要がある」と、停職処分を正当化している。
 オランダでも総選挙を1ヵ月後に控えた2006年10月19日の国会で、目の部分に透かしを入れただけで、すっぽり全身を覆うヴェール(ブルカ)は「社会への同化のさまたげ」だとして、公共の場でのブルカやニカブの着用を禁止。スウェーデンでも北部の学校が、教師、生徒のスカーフの着用を禁止、違反者は退学処分にすることと決定。またドイツでは、緑の党の連邦議会議員が「ヴェールは女性抑圧のシンボルだ」と述べ、ドイツで生活するイスラム移民女性たちに、「ヴェールを脱ぐ」よう呼びかけて波紋を広げた。
 こうした論議に対し、各国のイスラム教団体は「内政干渉、宗教の自由」「民族のアイデンティティを維持すべきだ」と反発している。

 欧州に住むイスラム教徒は1,500〜2,500万人。労働力を移民に頼らざるをえない欧州諸国は、イスラム教徒との共生社会をどう構築していくか、なお手探りの状態が続いている。そもそもイスラム世界のヴェールは、女性の長い髪が「男たちの欲情をそそる」からという理由だとか。
 日本でも県立某高校が「制服のスカート丈が短いと性犯罪を誘発する」という理由で、女子生徒のスカート丈を登校時にチェック、“合格切符”を手渡している報道(写真つき)を読んだが、スカート丈もヴェールも、男の欲情や性犯罪に結びつけるなんて、どこかおかしいと思いませんか?


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