2007. 7月

       
  戦時性暴力を根絶するために
              ――米下院外交委“慰安婦”決議案 採択
 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
   

 アムネスティー・インターナショナルによる2006年年次報告(2007年5月23日発表)には、日本の死刑執行急増(2006年12月に4名、2007年4月に3名)、難民・出入国管理制度、代用監獄と並んで、『過去の女性に対する暴力』が挙げられている。その警告文には「第二次世界大戦前および戦中の日本の性奴隷制の生存者たちに対する完全な賠償は否定されたままだった。日本の裁判所は賠償要求の訴えを何度も退け続けている。政府は相変わらず、賠償の要求の権利は戦後の協定によって解決したと主張している」とある。
 2007年1月末、米下院のマイク・ホンダ議員※ら6名によって米下院外交委員会に再提出された(今回で4回目)旧日本軍“慰安婦”問題対日謝罪要求決議案(H・Res121)は、あっという間に世界中に拡がり、各国のメディアは一斉に、この問題に対する日本政府の姿勢への批判の矢を放ち始めた。
 ついで2月には、元“慰安婦”にされた韓国のハルモニ李容洙さん、金君子さん、オランダのヤン・ルフ・オフェルネさんが米下院外交委員会アジア太平洋・地域環境小委員会の公聴会で証言。6名だった共同提案議員は145名にふくれ上がった。

 これに対し首相安倍は、3月5日の参議院予算委員会の席で「軍や官憲による強制連行を示す記述は(資料に)見当たらなかった」と、狭義の強制性を否定。安倍氏初訪米の4月27日、ホワイトハウス前には日本政府の公式謝罪を求める121決議支持団体や、米アムネスティ・インターナショナル他大勢の米市民がつめかけた。困惑した安倍首相は、ブッシュ大統領との首脳会談の際に“慰安婦”問題については、1993年の河野官房長官談話※※を踏襲しているとして「自らの考えを説明した」と表明。ブッシュ氏は「“慰安婦”問題は世界史上、残念な事件であり、私は首相の謝罪を受け入れる」と述べた……で、一件落着。米紙の社説は、「まず謝るべき相手は、ホワイトハウス前で抗議する元“慰安婦”ではなかったか?」と書き立てた。

 ところで、止せばいいのに6月14日、「靖国派」の国会議員44名他が、ワシントンポスト紙に『事実』のタイトルで「“慰安婦”問題に強制性はなかった」と全面広告を掲載。米下院の決議案が「日本軍による若い女性への性奴隷の強要」や「20世紀最大の人身売買の一つ」などと指摘しているのは“故意の歪曲だ”と主張した。当然の反発は予想できたはずなのに、馬鹿な広告を出したものだ。米下院外交委員会ラントス委員長は、自らも共同提案者になり、6月26日午後、この決議案を採択、超党派の賛成多数で可決された。

 さて、なぜいま“慰安婦”問題なのか?米公文書館で旧日本軍の“慰安婦”に関する公文書を発見した吉見義明氏は言う。「今回の米外交委の決議案の動きは、今もなくならない戦時性暴力をなくすための人類全体の課題です」と。そう、現在、世界各地で起きている闘争や紛争下で、女たちがレイプされているという事実――それを根絶するためには、この“慰安婦”問題を、ここできっちりと清算しなければならない。決議案の要旨の中の「公式な謝罪は首相の公の声明としてなされるべきだ」「日本で使われている教科書から“慰安婦”の悲劇や第二次大戦中の戦争犯罪について削除してはならない」を、ここに私たちは大きく支持する!

※ マイク・ホンダ議員:決議案を牽引してきた民主党のホンダ議員は日系3世で、幼少時に日系人強制収容所で過した。共同提案者の1人、ハンガリー生まれのラントス外交委員会委員長は、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の生き残りだ。
※※ 河野官房長官談話:1993年、「日本政府は、いわゆる従軍慰安婦として幾多の苦痛を経験され、心身に癒しがたい傷を負 わされたすべての方々に対し、心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」「このような問題を長く記憶にとどめ、同じ過ち を決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」云々……。

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