2008. 4月

       
  クラスター爆弾禁止条約 ―― その被害の目撃者として ――
 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
   

 最初のオスロ・クラスター爆弾禁止条約(2007年2月)は、残念ながら全国の合意が得られず、このまま時間を費やせば、クラスター爆弾使用が続いて人道上の悲劇を放置することになると考えた国々が『国際有志連合』を結成し、賛同国が条約を策定。2008年5月にアイルランド・ダブリンでの最後(5回目)の条約文確定を目指している。
 日本政府は最初のオスロ会議宣言には署名せず、「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」を順守すると主張。これは実は、米・中・露が禁止に反対しているため、同盟国アメリカへの追従であることはみえみえだ。とはいうものの、第4回のニュージーランド・ウェリントンでの会議には合意したというのだが、いつもの例の「二枚舌」となりそうで信用できない。ともあれ、ぐずぐずとアメリカの顔色をうかがっていないで即刻、5月に迫っている“国際有志連合”のクラスター爆弾禁止条約に署名せよ!と私は叫ぶ。というのも、ラオス・シェンクアン省で、クラスター爆弾による幼児と農夫の被害を目撃したからである。

 アメリカはベトナム戦争中の1964年からの9年間に、ベトナムとラオスとの国境線に沿ったホーチミンルートに300万トンもの爆弾を投下。あれから30数年たった現在も、UXO LAO(Un Exploded Ordnance in Laos)の不発弾処理班の努力も空しく、不発弾による住民たちの被害は頻発している。特にクラスター爆弾は不発のまま地面にもぐり込んで、日常的に子どもや農民、家畜を襲っており、完全撤去終了の日までは、牧場や農地、インフラもままならないとういのが現状だ。
 UXO LAOシェンクアン事務所の野外陳列場に並べられてあったクラスターの親爆弾の高さは2メートル以上、同筒の太さは説明してくれたUXO LAOのスタッフ、ワンディさんの腕でひとかかえもある巨大なものだった。この中に600〜700個のボール爆弾が詰め込まれている。親爆弾は信管の作用で空中分解し、中のボール爆弾は上下に4本ずつつけられている筋によって(空気の抵抗で)スピードを増しながら自動回転し、約3200回転すると安全装置がはずれて爆発。弾壁一面に埋め込まれた300個の小豆大のパチンコ状の鋼鉄が四方八方に飛び散る仕掛けになっている。

 親爆弾が高度600メートルで炸裂すると、飛行方向1000メートル、幅200メートルにわたって700個のボール爆弾が放出され、それぞれが更に爆発して2万個ものパチンコ球が飛び散る。この小粒の鋼球は秒速510メートル。拳銃弾より早く、頭蓋骨貫通、大腿骨骨折はもとより、1個でも心臓に入れば即死。脳に食い込めば全身麻痺の障害者になるという。問題なのは低空飛行で投下した場合で、親爆弾から放出されたボール爆弾が3200回転しないうちに着地してしまうことだ。こうなると不発弾のまま土の中に埋まり、見分けがつかなくなる。特にシェンクアン省は地理的条件により低空飛行での投下が多かったため、20〜30%以上が土中に埋まっており、いまもこれによる事故が絶えない。

 私が取材したシェンクアン省立病院では、ソムサヴァイ院長が先に立って、たったいまボール爆弾で負傷して担ぎ込まれた5歳の男の子と31歳の農夫の病室に案内してくれた。男の子は畑の中に埋まっていたボール爆弾を足で蹴って爆発。左足のかかとからふくらはぎ全体に何十個という鋼球がめり込んで、一面斑点状になっていた。「ひとりで遊びまわる就学前の年齢の子が最も危険です。小学校に入れば人形劇やクイズなどで毎日不発弾について教えられるのですが……」と院長は首を振った。もう1人の犠牲者の農夫は、果樹園で剪定した枝を燃やしていたところ、その熱で土中に埋まっていたボール爆弾が爆発。左目に数個の鋼球が飛び込んだという。「この病院では医療設備が不十分なので、ビエンチャンの国立病院に移送して眼球を摘出、義眼を入れることになるでしょう」と院長は言い、傍らですすり泣いている妻に「右眼が無事だから大丈夫」と、軽く肩をたたいた。ああ、核兵器を含めて、総ての殺人兵器廃絶は見果てぬ夢なのだろうか?!

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