報道されるたびに怒りがこみあげてくる妊婦の死。東京都内には総合周産期母子医療センターが9ヵ所も指定されているというのに、8つの病院に受け入れを断わられ、救急車を呼んだ1時間15分後にやっと、最初に断わった病院が、当直外の医師を呼び出すことで受け入れ、出産は成功したものの、母親は3日後、脳内出血で亡くなった。
その背景には全国的な産科医不足があり、医療機関に急な患者を受け入れる余力がないのが原因――と報道されたが(10月23日)、10月26日の新聞は、病院側が受け入れを断わった理由として最も多かったのが、新生児集中治療管理室(NICU)の不足だったと、すっぱ抜いた。NICUは重い先天性障害児や未熟児、重篤な黄疸をもつ新生児たちを治療するための施設だ。危険を伴う妊婦を受け入れる場合、新生児に問題のあるケースも想定してNICUの病床確保が前提となる。ところがNICUで治療を受ける新生児は、体重1,000g未満なら90日、1,500g未満なら60日、1,500g以上でも21日間と、長い期間入らざるを得ないケースが多く、そのためベッドはいつも満床という状況。港区の病院では、今年4月から9月末までに(同じ理由で)受け入れを断わったケースは117件のうち77件(65%)にのぼったという。
東京都内では年間10万人の新生児が誕生するため、都は200床を目標に整備を進めてきたものの、専門医によると300床は必要。しかも、小児科医の中でも「新生児専門の医師が少ない」「NICUを増やすと看護師がたくさん必要になるから無理」など、明るい見通しはなさそうだ。安心して子どもを産めない国日本と、福祉国スウェーデンの比較を、10月に3週間ほど取材してきた範囲内で紹介したい。
取材中、私が泊ったHotell Morbyは、ストックホルム県営病院に隣接した7階建の素朴なホテルだったが、まず驚いたのは朝食時のレストランに新生児の移動用ベッドを押してやってくる夫婦を何組も見かけたことだった。脚の長いプラスチック製のベッドは、ちょうどレストランのテーブルに載る高さに作られており、夫婦や幼児、また祖父母と思われる人々が同じ食卓について、新生児をあやしながらセルフサービスの朝食をとっている。まさに家庭的な、なごやかな朝食風景だ。
早速、受付係のリーダーで助産師でもあるモニカ・リンデンさんに聞いてみた。この建物は以前は県立病院の職員の宿舎だったという。13年前に病院の医師たちのアイデアでホテルに改装。産科で生まれた新生児に異常がなければ、出生後3〜4時間後には、ローソクのともったロマンチックな遂洞を通って、このホテルに移動。1週間に50人から120人ほどの新生児が2〜3日間滞在した後、自宅に戻っていく。
ホテルには常時2人の助産師が交替で24時間勤務しており、新生児を見守る。また医師も病院からやってきて、必要に応じて巡回診察する。こうすることによって、産科のベッドは常時あいており、医師や助産師の過重労働も解決するから、日本のような搬送拒否は起こらないわけだ。
しかも、出産の費用は健保で無料。ホテルでの宿泊料は母親が1泊80クローネ(1,320円)、父親他の大人は256クローネ(4,224円)、6歳以下の幼児は無料。7〜12歳は135クローネ(2,227円)という安価だ。このホテルはパリに本社があるSodexoというフランス系の企業が運営しており、病院からは1人1泊1,400クローネ(23,100円)が支払われる。これは、県の福祉費から病院に支給される金額の一部だろうが、ホテルは充分に経営が成り立っており、スウェーデン他77ヵ国にあるという。
出産・育児のための14週間の「両親保健」法により、男女どちらが休んでも給料の80%が保健局から支給される。また、480日の育休に並行して父親だけに適用される10日間の特別休暇がある。その他さまざまな福祉行政によって、スウェーデンの少子化は徐々に回復しつつあるという。ただしその財源が、消費税25%に支えられていることも忘れてはなるまい。この国の人びとは25%の消費税を払ってもその見返りが、このように、はっきりした形で行なわれているからこそ、文句を言わないのである。
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