昨(2008)年12月、「性と健康を考える女性専門家の会(代表 堀口雅子氏)」主催のシンポジウム『女性の健康とHPV(ヒト・パピローマウィルス)』を聴いてきたので報告したい。HPVには100種類以上の型があって、その30〜40種類が性交によって性器に感染。うち15種類程度ががんの原因になる。近年激増している10代、20代の子宮頸管がんの原因の70%を占めているのがHPV16型と18型だそうである。
そのまえに子宮頸管とは、どの部位なのか――を説明しておこう。子宮は洋ナシを逆さにした形で下腹部に位置し、腟に繋がっている。この洋ナシの首の部分が子宮頸管。性交時に射出された精液が最も大量に、しかも強くぶつかる部分だから、HPVに限らず他の性感染症の病原体も(相手が罹患していた場合)、この子宮頚管への感染が最も高いということになる。
女性のHPV検出率※は、初交年齢の低下に伴って、10代45%、20代23%、30代9%、40代6%、50代以上5%となっている。「えーっ!10代で45%?」と驚きの声をあげそうになるが、それは早トチリというもので、ほとんどの女性が一生に一度はHPVに感染するが、そのうち10人に9人は自分の免疫力でウィルスを追い出すため、1〜2年で自然に消滅するらしい、「ホッ!」。
だが安心してはいけない。逆に10人に1人は(無症候であるため)感染に気づかないまま持ち続け(持続感染)、細胞が変化を起こして(異形成)、さらに進行すると「がん細胞※※」になってしまうとか。従って、まずはHPVに感染した段階や、細胞が変化を起こし始めた段階までに、早期発見、早期治療が必要――つまり、性交体験のある女性は年1回の「定期検診を受けよう!」というのが当日の講師の方々のアドヴァイスだった。
パワーポイントでスクリーンに映し出された初期の子宮頸がん(異形成)は、円錐切除法という手術で除去され、次の映像ではピンク色のきれいな子宮頸管になっていた。この女性は術後2年目に妊娠、正常分娩で元気なあかちゃんを産んでいる。もし定期検診を受けず、異常に気づいてからだったら、子宮体がんにまで進行して「子宮全摘出」をしなくてはならなかったかもしれないのだ。
定期検診さえ受ければ防げる子宮頸がん――ところがグラフ(下図)にみるように、欧米諸国に比べて日本の検診率は僅か23.7%。理由は、子宮頸管がんの知識の普及が不徹底なため、女性たちに危機感が皆無であることだ。2004年から全都道府県の20歳以上の女性を対象に2年に1回、「細胞診検査」が受けられる。通知が来たら必ず指定病院や保健所で無料の検査を受けること(自費の場合は1回16,000〜18,000円)。細胞診で軽度の異常がみられたり、ボーダーラインだった場合は、更にHPVの検査を受ける必要があるため、専門医の再検査を受けよう。
ここでもう1人のスピーカー、北海道医療大学講師のSharon Hanleyさんの話を紹介しよう。彼女の故国イギリスでは、1990年から定期検診の補助金制度を開始。これを徹底するために、各地域のGP(ファミリードクター)が、ふだん診ている総ての患者の住所・氏名のリストの中から、該当する年齢の全女性に検診を呼びかける。
検診はごく簡単。小さなブラシ状のもので子宮頸管の少量の細胞をぐるりと採取(サンプル検診)。結果を本人はもとより、データ収集統計局に報告する。検診担当者は、上級看護師や助産師でもよく、簡単で迅速であることが定期検診推進のコツであるという。
では、HPVのワクチンはないのか?これがあるのだ!世界105カ国ではすでに認可されており(日本では未認可)、Hanleyさんによると、英国では「11〜13歳の女子全員にワクチンを3回接種。初交開始前までに免疫を持たせるHPV感染予防政策が行なわれています」とのこと――もちろん無料で。日本ではなぜ、HPVの予防接種を実施しないのだろうか?
当日の参加者からは、「メタボ!メタボ!と中高年の肥満検診ばかり広報するのも、日本が男性優位社会だからだ」「その国費を全女性のための子宮頸管がん無料検査にまわさせよう!」などの発言が相次ぎ、会場は「賛成!」の声と拍手に湧いたのだった。読者のみなさんは、どう思われますか?
※ 2003〜2004年5月、石川県に在住した一般女性8,156例より(提供 日本婦人科腫瘍センター長 上坊敏子)
※※ HPVの感染から、がんに進行するまでの期間は約10年。なお、HPVは男性の陰茎がん、口腔がんの原因ともなるそうです。
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