2009. 7月

       
 

映画『ブッシュ』、“世襲”の問題を衝く


 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
   

 総選挙に向け、「世襲制限」を主張して集中攻撃を浴びた菅義偉議員が、自民党のマニフェストPT座長に就任した。“世襲”といえば、去る5月27日の党首討論――テレビの画面には麻生首相の背景に祖父の故吉田茂氏が、鳩山民主党代表の背景には、祖父の故鳩山一郎氏の肖像が、亡霊のように(モノクロ)で映し出されたのが面白かった。まさに「世襲そのもの」という感じで。

 社会派の映画監督オリバー・ストーン、脚本 スタンリー・ワイザーによる映画『ブッシュ』を観た。
 名門ブッシュ家の跡継ぎであるジョージ・W・ブッシュ(1946〜)は、兵器会社“レミントン”で財を成した男を曽祖父に、コネチカット州上院議員を祖父に、そして第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュを父に持ちながら、父に与えられた仕事も満足に続かず、40歳になるまで酒とパーティーに明け暮れるダメ息子。名門エール大学、ハーバード大学に入れたのもレガシー・ティップ(身内がOBやOGの場合、成績が悪くても入学できる特権)のおかげ。ベトナム戦争時も、パパ・ブッシュのコネでテキサス空軍州兵に編入され、州兵の特権として兵役をまぬがれた。おまけにパパ・ブッシュは、ダメ息子が妊娠させた女性の後始末まで……といった、どうしようもない父子関係が描かれている。
 ストーン監督は脚本家のワイザーと20冊以上のブッシュ文献にあたり、ブッシュの「公平な真実の肖像画を描いた」と広言しているから、まんざらウソでもなさそうだ。テキサス州出身、カウボーイハットのノーテンキな彼の言動に、観客の間からは度々失笑が起こったが、私には、「偉大なパパに押しつぶされた可哀想な息子」という印象の方が強かった。

 1986年、40歳の誕生日に転機が訪れた。大統領選を目指すパパから「選挙戦を手伝ってくれないか」と誘いがきたのだ。彼は喜び勇んで選対を指揮、パパを大統領に当選させるのに成功した。だが、その任期は1期で終わり、次期大統領はビル・クリントン。選対で自信を得た彼は「湾岸戦争でフセインに止めを刺していたら、パパは2期目も勝てたのに!(よし、オレはやるぞ!)」と、それまでコンプレックスの塊だった彼は誓った。そこに現われたのが、数千万人の信者を持つというキリスト教右派の説教師。
 彼はブッシュに神のお告げを囁く。それを聞いたブッシュは、自身に満ち、誇らしげに叫ぶ。「ボクは今、天の啓示を受けた。お前が大統領になるのだ、アメリカはボクを必要としている!」と。そして2000年、遂に第43代大統領となる。だが、運命の神は“9.11同時多発テロ”を用意していたのだった。

 この映画の中の一番の見所は、イラク開戦前の秘密会議を再現した場面だ。副大統領チェイニー、国防長官ラムズフェルド、中央情報局(CIA)長官テネット、イラン・イラク・北朝鮮を国際テロ組織と結びつけ「悪の枢軸」というネーミングを発案した大統領補佐官のフラム……こうした連中にそそのかされ、パパ・ブッシュを越えようと、彼はイラク攻撃を決行する。
 悪知恵の知恵袋チェイニー副大統領に向かって「知恵だけ貸せ。それを使うのはオレだ」と豪語していたというから、日本の誰かさんと似ていないか?ブッシュ大統領の数々の妄語録もプログラムに載っている。例えば、「フセインが武装解除しないのなら、我々の方が武装解除するまでだ!」(「させるまでだ」の言い間違え)。――“未曾有の経済危機”と読み間違えて話題になった誰かさんも、映画にしたら面白いだろうな。

 その誰かさんは“世襲”について、去る6月9日、品川区の自民党都議の事務所でこう挨拶したそうな。「親の跡を継いで何が悪い?親の背中を見て子は育つ。『おれもああなりたい』と思わせたおやじは良いおやじだ」。ついでに、そこにいた都議の小学生の息子の肩を叩いて「おまえも跡を継ぐのか、世襲がんばれ!」と励ましたという。
 世襲議員たちよ、ブッシュのようなヘマはやらないで!と忠告せずにはいられないのは、私だけではあるまい。

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