1979年に国連で採択された「女性差別撤廃条約」――日本は6年後の1985年にやっと批准したが、この条約をより効果的なものにする「選択議定書(1999年採択)」は、いまだに批准していない。すでに96ヵ国が批准しているというのに、先進国で批准していないのはアメリカと日本だけだ。
「議定書」は、(1)人権侵害をうけた個人やグループが、国連の女性差別撤廃委員会※に直接通報ができる。(2)重大で組織的な権利侵害があるとの情報が寄せられた場合は、委員会はその国の協力を得て調査に乗り出すことができる。つまり、条約と議定書の2つがセットで働くことで実効性を発揮できる、というシステムだ。従って議定書を批准していない日本は、男女の賃金格差是正も、女性による政策改正案上程も後押ししてもらえないということになる。
委員会が日本政府に対して2003年7月に提出した勧告は、「日本の男女の役割に関する現在のステレオタイプ(固定観念)に基づいた態度を変えるために、(1)子育ては母と父双方の社会的責任。(2)DVを含めた女性に対する暴力への法整備。(3)雇用差別および職場と家庭労働の両立。(4)結婚制度の民法改正に着手せよ」という内容だった。そして今回(2009年7月23日)、国連本部で開かれた審査会は、日本政府に対し、2003年の勧告実施の進捗状況の報告を迫るものだった。
日本からは、45の女性団体でつくる「日本女性差別撤廃条約ネットワーク(NGO)」の80人を超えるメンバーが傍聴にかけつけた。ところが日本政府代表の南野知恵子参議院議員(自民党)は、「残念ながら取り組みは遅れている」。法務省代表は「国民各層や関係方面でさまざまな論議があり、動向を注視している」と回答。各国の参加者の間から失笑が漏れたという。
委員会からは「すでに2003年に本条約2条で女性差別となる民法の法修正、廃止を勧告したにもかかわらず、夫婦同姓、婚姻年齢の男女差別、法律婚以外の婚外子の“嫡出でない子”の記載、婚外子への遺産相続は嫡出子の1/2など、また、離婚後の女性の再婚禁止期間、夫婦の氏の選択、戸籍制度、雇用(女性のパートタイムおよび派遣労働、賃金格差)などなど……依然として存在する差別的な法規定を改正せよ」と再勧告を提出し終了した。
ところで、あいた口がふさがらないのは、同問題を直接担当する内閣府の男女共同参画局長が、今回の審査会直前の7月7日に交代した事実だ。「新局長は農水省からきた人で、回答するのはとても無理。この重要な再勧告のさ中に“ジェンダーの平等”への基本的認識もあやふやな人事をする政府の見識を疑う」と、傍聴した1人はぼやいていた。
折も折、民主党は8月に行なわれる総選挙のマニフェスト※※に、つい先頃まで挙げ続けてきた民法改正案、同姓か別姓かを選べる選択的夫婦別姓の導入/男性は18歳、女性は16歳の婚姻最低年齢を男女とも18歳に/女性の再婚禁止期間を180日から100日に短縮/現在1/2の婚外子遺産相続分を嫡出子と同じに、を“見送った”と発表。理由は「党内に根強い保守系議員を中心とした圧力があり、政権政党ともなれば、これら反対派との対立が過熱化することを懸念して」とのこと。
今回の総選挙で政権交代すれば実現するかも?と期待していた私たち女性有権者を裏切った民主党、しかも女性差別撤廃条約採択30周年、再勧告のさ中のこの愚行!怒り心頭に発するのは私だけではあるまい。
※女性差別撤廃条約に基づく国際機関で、投票によって選ばれた23人の委員で構成。
※※民主党は1998年結党以来、野党共同で、この改正案の提出を重ねてきた。
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