2009. 10月

       
 

フランスの「連帯市民協約」導入から10年の現在

 
 

「性を語る会」代表 北沢 杏子

 
       
   

 国連女性差別撤廃条約が採択されて30周年!去る7月23日(09年)、同委員会(CEDAW)は日本政府に対し、4回目の“女性差別撤廃に関する取り組みの遅れ”を、48項目に渡って勧告してきた。中でも日本の国籍法、婚姻制度、非嫡出子の名称、非嫡出子の遺産相続分が嫡出子の1/2と不平等――などの差別は、第3回(03年)の勧告後もまったく改善・是正されていないことが指摘された。

 介護福祉士、菅原和之さん(44)とパートナーが、その“信条”により事実婚を選んだ結果、第1子の出生届に対し、居住地の区役所は、「嫡出でない子・女」の付せん処理を行ない、第2子に至っては出生届まで不受理、無戸籍となってしまったこと。加えて住民票も作成されず、子どもの有する権利(予防接種/児童手当/保育所・幼稚園・小学校の学籍簿作成/パスポート取得/選挙権他)が、すべて奪われてしまったこと。更に、この「婚外子差別」裁判は、高裁、最高裁で敗訴に至ったことは、このHP7月号、8月号に書いた。今回は、法律婚一辺倒の日本とフランスの連帯市民協約(PACS)についての情報を記したい。

 PACSは、18歳以上の成人(異性間、同性間)同士が共同生活の契約を結ぶことで、税法上の特典が付与されると同時に、負債の連帯責任などの義務も伴う制度で、1999年から施行。結婚に囚われない自由な生き方を求める人びとの間で選択され、同様の制度が広がる欧州の中でも特にフランスでは際だった普及ぶりだ。
 「一緒に暮らしたい」、「でも、結婚する気はない」、とはいうものの、「公に認められたカップルになりたい」とは、異性同士、同性同士にかかわらず、経済的、精神的に自立した人間の希求といえるだろう。

 法律婚の場合、役所に出向き市町村長の前で宣誓、親族や友人を集めた披露宴、双方の家族同士の付き合いもしなければならない。だが、この協約を選択すれば30秒でことは済む。というのも、日本の簡易裁判所にあたる小審裁判所で、届出の書類の名前と生年月日を確認するだけ。それぞれの両親と個別に食事(顔合わせ)はするが、披露宴もしなければ結婚指輪も不要。このように手続きが簡単な上、法律婚同様に1つの世帯として所得申告ができ納税額が減る。

 協約締結数は、10年前の初年度は6,151件だったが、07年には10万件を超え、08年には14万6,000件に達した(法律婚は27万3,500件)。結婚を渋っていたカップルが「自由が魅力」の、この選択肢に飛びついたというのが実態だ。婚外子の割合も50.5%(07年)。法律上の嫡出子、非嫡出子の区別はなく、「非嫡出子の相続分は嫡出子の1/2」の規定も廃止。親の婚姻の有無に関係なく、子どもには同じ諸権利が与えられる。また、姓を変える必要がなく、離婚も、「法律婚」の場合は代理人(弁護士)を指定して裁判所で手続きをしなければならないが、協約は一方が言い出せば解消できる。

 日本でも婚姻法(民法)をもっと自由に「選択的夫婦別姓」を導入すれば、政府が嘆く「少子・高齢化社会」は解決の方向にむかうのではないか? もっとも、その前に女性差別撤廃委員会が再三にわたって勧告してくる「職場における両性の平等、正規労働者と非正規労働の均等な待遇、子育ては父と母の社会的責任」他の改革が必要なことは言うまでもないが……。
 「一緒に暮らしたい。だが法律婚はしたくない」、「子どもは欲しい。だが婚外子にはしたくない」――この日本の女性たちの希求は、いつ果たせるのか?実現は遥か彼方かもしれない。

※1年間に外国人の母親から生まれる婚外子は2,800人。日本人が母親の婚外子は23,000人となっている(06年)。

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