2010. 5月

       
 


知っていますか?世界各国の少女への人権侵害

―「児童婚」と「女性性器切除」― 

 
 

「性を語る会」代表 北沢 杏子

 
       
   

  1995年に中国・北京で開かれた第4回世界女性会議は参加国189ヵ国、参加者総数5万人という史上空前の女たちの大集会となった。この時、その条文で宣言したのが、アフリカ諸国が強く要求した「女性と少女の人権」。つづく1997年には、ユニセフなど国連3機関が「少女への人権侵害・廃絶すべき悪習」として共同声明を提出。その代表的なものが、家父長制の力と支配が生んだ因習、慣習による「児童婚」および「女性性器切除(FGM)」だった。この信じられないような悪習の実例を、2冊の資料※から紹介したい。

 イエメンで――「児童婚」が社会的慣習として長い間黙認されてきたイエメンで、2009年7月、10歳のノジョドちゃんが毅然として法廷に立ち「離婚」を訴えることで大反響を呼び起こした。法廷に立ったノジョドちゃんは30歳の夫との「悪夢のような結婚生活」について、その奴隷的日常生活を証言して勝訴。
 ついでメディアが「イエメンにおける妊産婦と新生児の死亡率が世界で最も高い原因は、児童婚にある」「15歳未満の少女の出産は、骨盤やホルモン分泌の未発達他の理由から、成人女性より死亡するリスクが5倍に跳ね上がる」と発表。世論に押されて政府機関がやむなく実態を調査・検証した結果、現在、児童婚の禁止、女子教育の向上、少女の人身売買の罰則などの法整備が進められているという。
 「学校に戻れて嬉しい。一生懸命勉強して将来は弁護士になりたい」と、ノジュドちゃんは語っている。

 ソマリアで――ソマリア・ハルゲイサの17,000人が暮らす難民キャンプ。3男3女の母親で50歳のロダさんは、娘たちの性器切除について、2年前、長女に引き続き次女のホドちゃん(当時8歳)に性器切除を受けさせたことを、伏目がちに告白した。
 性器切除はアフリカを中心に2000年来続く因習で、ソマリアやエジプト、エチオピアなど約30カ国で行なわれ、これを受けた女性は世界で1億4000万人。毎年300万人の少女が犠牲になっている。これも家父長制による力と支配によって、「純潔および貞操を守るため」とされてきた因習だ。性器を切除することで女性の性感が失われ、性的欲求を抑えることができるという男性側の身勝手な言い分によるもので、これが「結婚の条件」になっているというから、「少女の人権」などと言っても馬耳東風だろう。
 切除の形態は@クリトリスを切除、Aクリトリスと小陰唇を切除、Bクリトリス、小陰唇、大陰唇のすべてを切除したあと、棒などを差しこんで(尿と月経血を出すための)小さな穴を残して縫合する、の3つで、ほとんどをAとBが占めているという。
 切除は、それを職業とする村の老女によって、非衛生的な状況下で行なわれ、出血多量や感染症で死亡することも少なくない。また上記Bの場合は、結婚の際に縫合した部分の一部を切り開くため、性交痛と難産、合併症や新生児死亡の原因にもつながっている。
 いまは10歳になった小学校3年生のホドちゃんは、「あの日」のことを涙ながらに訴える。ある朝突然、知らない老婆が来た。床に敷いたマットレスの上に寝かされ、母と数人のおばさんたちに手足を押さえられて足を開かされた。老婆がカミソリを手に近づいてきた。「すごく痛かった。怖くて泣き叫んだけれど、誰も助けてくれなかった。血もたくさん出たの」と。「いまは傷口の痛みはなくなったけど、(小さな穴しかなく)おしっこが少しずつしか出ない。トイレに長く座っていないとだめなので、なかなか教室に戻れないの」。その後、母親のロダさんは後悔し、「三女には絶対受けさせない」と、ユニセフの援助によるNGO「トスタン」と共に、性器切除が少女と女性の体に及ぼす悪影響の普及活動に参加。こうした大勢の女たちの運動によって、3年後の現在、罰則つきの「FGM廃絶」が宣言されたのだった。

※資料 財団ユニセフ協会「世界の子供」2009年刊より。
朝日新聞 2010年3月18日「女性性器切除廃絶へ一歩」(ハルゲイザ=編集委員・大久保真紀)より

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