2010. 7月

       
 

ゲームのやり過ぎ、大丈夫?

――エスカレートするアメリカの軍隊体験ゲームセンター――

 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
   

 『ゲームのやり過ぎ、大丈夫?』のタイトルで、朝日新聞は「子どもとメディア」代表の清川輝基氏(68)と、ゲーム業界団体「CESA」理事の堀口大典氏(58)の対談を特集している(2010年6月9日)。私は、ゲームに否定的な前者の意見に概ね賛同する立場から、私なりの解釈でここに述べてみたい(Qは朝日新聞側、Aは清川氏、堀口氏の意見を私流に脚色したもので、文責は私にある)。

Q ゲームが子どもの心身に与える影響について何を検証すべきか?
A 人間にとって最も大切な言語の形成期にひたすらゲームに熱中することで、発達にどんな影響がでるかを検証すべきだ。例えば校内でのいじめが問題になっているのも、言語レベル(表現言語)が下がって、お互いの異見や感情を適切な言葉で表現することができなくなっているからではないか。
Q 子ども同士のコミュニケーションツールになっていると評価する人もいるが……?
A 日本の15歳の子どもの30%が孤独を感じているというユニセフの調査がある。ゲーム、インターネット、ケータイにはまって、お互いに顔を突きあわせたコミュニケーションの機会が奪われていると思う。
Q 業界に言いたいことは?
A 子どもを金儲けのターゲットにしているのが現状。大人は子どもの最善の利益を守る義務がある(子どもの権利条約、第3条)。年齢制限の“レーティング”をしているとか、説明書に“「休憩を」と書いてある”というが、子どもは守っておらず、業界の言い訳に過ぎない。
 一方、業界側の言い分を拾うと……、Q ゲーム依存症になる心配は?
A 3歳〜79歳の男女500人を対象に、当協会が行なったゲーム中毒調査では、中毒でない人80%、中毒予備軍10%、中毒症状の人は3%に過ぎなかった。「ゲームのせいで社会性が育たない」という批判があるが本末転倒。核家族化が進み、夫婦共働き家庭が増えたという社会現象が背景にある。また、幼い子ども自身がゲーム機を買うわけではなく、親の判断で買い与えた結果、「子どもが一日中ゲームをしている」というなら、むしろ親の指導力を問いたい。
Q 保護者からの製造者責任を問う声も聞くが?
A ゲームの説明書には「1時間やったら10分休みましょう」と書いてあり(製造物責任法)、さらに業界の自主規制として、性や暴力、反社会的表現を区分する「レーティング」を行ない、パッケージに表示してある。

 ところで、最近読んだ『フライドポテトと戦闘機――オバマ時代のアメリカ事情』(円道まさみ著 新日本出版社2010年5月刊)には、「ゲームを軍隊リクルートに繋げる」という恐るべきレポートが載っている。
 2008年、フィラデルフィアのショッピングセンターに、陸軍体験センター(The Army Experience Center)がオープン。これは、アメリカ軍が1200万ドルをかけて建設した軍隊リクルート・ゲームセンターだとか。
 ハイテク技術を導入し、戦車や戦闘機、銃撃戦をコンピュータースクリーンを通して体験できるようになっており、M16ライフルからアパッチヘリコプターまで、実物そっくりの武器が使え、スクリーン上でイラク戦争を体験できるという。さらにセンターには20人の現役兵士が配備され、若者たちに銃の使い方の指導や軍に関する質問も受けつける。ただし、戦闘ゲームに参加できるのは13歳以上。入り口で名前、生年月日などを登録するシステムになっている。コンピューター世代の子どもたちの間では、この大規模な、わくわくする最新の戦闘ゲームセンターが大人気のようだ。
 一方、このセンターへの反対運動を展開しているのは、反戦・平和団体。「軍隊と戦争を美化し、子どもたちを戦場に送るためのリクルーティング(勧誘)が目的だ」と抗議する。実際、アメリカの中・高校には、軍のリクルーターが生徒の勧誘にやってくる。陸軍体験センターのゲームにはまった子どもたちは、このリクルートにやすやすと応じるのではないか?「ゲームのやり過ぎ、大丈夫?」と、私は再度忠告したい。


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