『HIV/AIDS最新情報』(UN AIDS刊)によれば、入手可能なデータを基に算出した世界のHIV感染者・患者の推定数は(2008年末現在)、3,340万人で、うち15歳未満の子どもは210万人。2008年1年間の新規感染者数は270万人(うち、子どもは43万人)、2008年の死亡者数は200万人(うち、子どもは28万人)となっている。
世界のこの膨大な数の感染者・患者への治療および予防対策には、継続的な国際的資金提供が必要で、2010年のユニバーサルアクセス目標達成には250億米ドルの資金提供が望まれている。だが、近年の国際的金融危機の結果、それもおぼつかないというのが現状のようだ。
2008年の国際援助費158億米ドルの内わけは、米国61%、英国16%、オランダ8%、ドイツ5%……と13ヵ国他が拠出しているが、日本は最下位の0.4%。「エイズは他人ごと」という無関心な民意が露呈されているではないか。ちなみに日本のHIV感染者・患者総数は17,200人。薬害エイズ1,439人を加えると18,639人(厚生労働省エイズ動向委員会発表 2010年3月28日現在)である。
それにしても、このUN AIDSの最新情報資料集のデータで驚かされたことは、最近の調査で判明した感染経路の多様性である。より高いリスク群は、IDM(注射器による薬物使用者)、MSM(男性とセックスする男性)、セックスワーカー(売春男性も含む)、受刑者(刑務所内の性支配・性虐待による)、移住労働者(出稼ぎ男性の買春、出稼ぎ女性の売春)、慣習的「児童婚」、少女への「性器切除(FGM)」などが挙げられている。
UN AIDSは「あなたの国の感染経路の特徴をよく調査し、その対象群に対する予防対策を強力に進めよ」と勧告した。各国の感染経路の例を挙げると、例えばレソトでは、「児童婚」が象徴する年齢格差のある男女関係が、女性の異常に高いHIV感染率に結びついている。このような家父長制的男性支配の慣習に寛容な国々は、他にもケニア、モザンビーク、スワジランド、ザンビア他があり、男性4割に対し6割という少女を含む女性たちの感染比率が、それを実証している。
最近のユニセフの調査報告では、スワジランドの女性の4人に1人が、子どものころに性虐待を受けており、18〜24歳の女性の3人に2人がDVの犠牲者だったという。にもかかわらず、個人の性行動にのみ焦点を当てているこれらの国のHIV予防対策の専門家たちに、ユニセフの調査班は、前に挙げたようなリスク行動を容認している「社会の変容」にこそ、力を注ぐべきだと勧告している。
一方、東ヨーロッパおよびアジアでは、若者の間できわめて多くのHIV新規感染者が、発生している。ロシア連邦サンクトペテルブルグでは、路上生活の少年・少女の35%もがHIVに感染していることが判明。若者がHIVから身を守るための予防プログラムが急がれている。若者向けのプログラムは、HIVに対する知識、性教育、有害な性的慣習に関する議論などを含む包括的サービスの提供が必要不可欠であり、これはわが国の10代の若者たちも同様といえよう。
先進国でHIV感染が増え続けているのは「日本だけ」と言われて久しい。その理由のひとつに、小・中・高校における性教育、エイズを含むSTD予防教育が殆ど行なわれていないという実態がある。
HIV感染者の激増(2009年は1500名が感染)で、予算がパンク寸前の厚労省は、「なんとか学校でエイズ予防教育を」と要請するものの、文科省は学力向上の一辺倒で耳を貸そうともしない。仕方なく各地の保健所の保健師が小・中・高校にエイズ予防の出前授業に通っているのが現状だ。しかし、小学校などでは「エイズは性行為でうつる」は禁句。「寝た子を起こすな」「火に油を注ぐようなことを教えるな」と管理職から注文され、出張授業担当の保健師たちは「正しい知識も伝えられない」と嘆息していた。
日本のHIV感染者・患者は今年中に2万人を超えるだろう。文科省と厚労省のタテワリ行政の犠牲者は、日本の10代の若者たちである。いまこそ、性教育を!と私は声を大にして叫びたい。
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