2010. 9

       
 

クラスター爆弾禁止条約が発効

――私が見てきた、ラオスのクラスター爆弾による被害と
不発弾処理班 UXO LAOの活動――
そのT

 
 

「性を語る会」代表  北沢 杏子

 
       
   

 どうして爆弾が土の中にあるんだろう?/戦争があったからさ/
戦争ってなんだい?/人と人が殺しあうこと/どうして殺しあうのかな?/
おとなの権力者が命令するから……。


 これは、ラオス北部シェンクアン省ナムトム村の子どもたちと私との会話だ。米国は1964年から9年間にわたって、300万トンもの爆弾をラオス全土に投下した。当時ラオスの総人口は300万人だったから、1人あたり1トン。とくに私が取材したシェンクアン省は、ベトナム戦争時、ホーチミンルートの重要拠点だったことから、1人あたり3トンが投下されたことになる。
 なかでも未だに深刻な被害を及ぼしているのがクラスター(集束)爆弾から弾き出された直径6〜7センチの「ボール爆弾」と呼ばれる不発の子爆弾である。不発弾の処理を業務とするUXO(Unexploded Ordnance)LAO シェンクアン事務所のスタッフ、ワンディさんは、建物の入り口に陳列してある、米軍が投下した何十種類もの対人殺傷兵器のひとつひとつを手にとって説明してくれた。今回は、2010年8月1日、遂に発行した「クラスター爆弾禁止条約」を解説するために、それがどんなものであるのかを説明しよう。

 シェンクアン省で最も大量に発見され、いまもなお死傷者が続出しているボール状の子爆弾(通称ボンビー)を内蔵している親爆弾クラスターは、長さ2メートル、円筒部の太さは、男性の腕で一抱えもある巨大なものだ。この中に600〜700個の子爆弾が詰め込まれている。親爆弾は、投下されると信管の作用で空中爆発し、中のボール爆弾がはじき出される。このボール爆弾は、上下に刻まれている4条の筋によって(空気の抵抗で)スピードを増しながらくるくると自動回転し、約3,200回転すると安全装置がはずれて爆発。弾壁一面に埋め込まれた300個の小豆大のパチンコ状の鋼球が四方八方に飛び散る仕掛けになっている。
 親爆弾が高度600メートルで炸裂すると、飛行方向100メートル、幅200メートルにわたって700個のボール爆弾が放出され、それがさらに爆発して2万個ものパチンコ球状の弾丸が飛び散る。この小粒の鋼球は秒速510メートル、拳銃弾より速く、頭蓋骨貫通、大腿骨骨折はもとより、一個でも心臓に入れば即死、また脳に食い込むと全身麻痺の障害者になるという。

 問題なのは、低空で投下した場合、親爆弾から放出された子爆弾が3,200回転する前に着地してしまい、不発弾のまま土の中に埋まってしまうことだ。特にシェンクアンでは、低空飛行で投下されることが少なくなかったため、20〜30%もが土中に埋まっており、現在もこれによる事故が多発している。
 なぜ低空飛行で投下したのか?これには諸説あるが、当時タイの軍政府は米国の圧力によって、自国内の30箇所もの基地を提供し、ベトナム北爆を優位に導いたのだった。ところで、米軍爆撃機は、空身で戻らなければ着地の際爆発する恐れがある。そのため北爆の帰路、シェンクアン省ジャール平原の低空を有視飛行しながらじゅうたん爆撃し、搭載した爆弾をからっぽにしてから基地に戻るのを常にしていたという説が有力だ。

 その日、シェンクアン省立病院に立ち寄った私を、院長のソムサヴァイ氏は、ボール爆弾で負傷した5歳の男の子と31歳の農夫の病室に案内してくれた。この犠牲者の詳細は次回に譲るとして、今回の「クラスターの使用、製造を禁じる条約」を受けて、加盟国は8年以内に保有する同爆弾を廃棄し、被害者支援などの義務を負う。この条約はこれまでに、日本をはじめ108ヵ国が署名、38ヵ国が締結した。ところが、同爆弾を大量に保有する米国、ロシア、中国は(核不拡散条約と同じく)加盟しようとしない。
 同条約は2007年、NGOの要請を受けてノルウェー政府が提案。有志国による「オスロ・プロセス」方式で交渉開始から3年半で、今回の発行にこぎ着けた。国連・藩基文事務総長は「クラスター爆弾禁止条約発効は、軍縮および人道的課題にとって大きな前進」との声明を発表。同条約の第1回締結国会議は、11月にラオスで開かれる。なぜ、ラオスか?ベトナム戦争のとばっちりを受けて、いまなお犠牲者を出し続けている国だからだ。

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