前回に引き続き、「性を語る会」主催のシンポジウム『非行少年・少女の性行動――その「育てなおし」と支援――』のゲストスピーカー、杉浦ひとみ弁護士の話を続けよう。
「もしわが子が、生徒が、犯罪に巻き込まれて、逮捕され、警察の留置所(代用監獄)に連れ去られたら、どうしたらいいんですか?」という私の質問に対して、杉浦さんは、
「10代の子どもが(事件を起こして)親元から離されて警察に連れて行かれ、プロの刑事と対峙して話す場合を想定してですが、親としては“やったことはちゃんと話しなさい。それ以上のことは話さないで(黙秘権)”と日頃から言っておくといいでしょう。10代の子どもにとって、警察の中で何をどこまで話すべきかの判断はとても難しい。ですから、とりあえず弁護士を呼んでもらって、どういうふうに応じたらいいのか、応じないことがあっても許されるのかどうかを、弁護士に教えてもらう必要があります」。
さらに私の質問、「そういう場合、少年が取り調べ官に向かって“当番弁護士※を呼んでください”と言っていいんですか?」への回答は――、
「もちろん、言っていいです。私はそういう知恵を子どもたちに与えたい。親や教師たちにも知らせたいです。(略)親は子どもに日頃から、取り調べのとき『当番弁護士……』という話が出たら『つけたいと言ったほうが有利だよ』と教えたり、親のほうから弁護士会に連絡して『当番弁護士をお願いしたい』と相談するといいでしょう。(略)とはいっても、少年事件の場合は、企業専門の弁護士のような方ではない、少年事件に詳しく理解のある弁護士を選んでください。はじめの弁護士選びが大切なのですよ(略)」とのことだった。
というのも、警察官なり検察官の作成した自白調書には、特別な証拠能力が認められていて、裁判官は審判廷での少年の陳述以前に調書を読み、調書に有罪とあれば99.7%は有罪になるという現実があるからだとか。
日弁連の、取調べの可視化実現本部・副部長・美奈川成章弁護士(64)は、同じ朝日新聞の“耕論”の中でこう語っている。「私は10年近く、取り調べの可視化の問題に取り組んできましたが、当初、可視化は英米やオーストラリアなど、米英法系の国が中心でした。(略)日本の捜査関係者は可視化に反対する理由として“被疑者が心を開いて真相を語るようになるには、取調官との間の信頼関係が必要。録画されると、それができなくなる”と言います。しかし、信頼関係というのは、平等な人間同士の間に生まれるもので、身柄を拘束されている被疑者と取調官という、力関係に圧倒的な差がある人の間で、真の意味での信頼関係は成立しないと思う。(略)世界に先駆けて可視化した英国では、取り調べの相手に存分にしゃべらせた上で、手持ちの証拠を基に、供述の矛盾点を突いていく取り調べの技術を、心理学者などの協力も得ながら開発し、蓄積しているのですよ」と。
それにしても、取り調べの可視化の実現には、まだまだ、さまざまな問題が山積しているようだ。前回の元・リクルート会長、江副浩正さんは、ご自分の体験からこう語っている。
「検察は取り調べの一部を録音・録画する取り組みを始めているようですが(略)『調書に署名しなければ長期拘留になる』という脅しに負けて、被疑者が署名したとしても、脅しの場面は見せず(録画せず)、検事が調書の内容を読み上げ、被疑者が署名する場面だけを録画して裁判所に見せたとすると、“署名は任意に行なわれた”という心証を与えることになり、被疑者にとって今より不利になってしまう(略)。取り調べを全面可視化し、特捜部は従来のような供述調書偏重の捜査から脱却して、客観的な証拠物の積み重ねによる立証へと手法を変えるべきでしょう」と。
そのTそのUと続いた「取り調べ可視化」へのそれぞれの意見――どの意見に賛同するにせよ、私はまず、子どもたちに、もし非行に巻き込まれ逮捕・拘留されたら、@黙秘権があること A保護者を呼んでもらうこと B「当番弁護士をつけてください」と取調官に訴えること――この3つだけは知っていて欲しいと考えている。
※日弁連が全国の弁護士会と協力して作った制度。この制度を利用すれば、警察署や裁判所などから、最寄の弁護士会に連絡が入り、速やかに面接(接見)にきてくれる。1回目は無料。
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