3.11東日本大震災――長期にわたる避難所の生活で、障害児をもつ親たちは、どんなにかご苦労されたことだろう。『大震災、自閉っこ家族のサバイバル』(高橋みかわ 編著 ぶどう社 2011年7月20日 刊)を読み、明るく乗り越えていく母親たち、それなりに逞しく順応していく自閉症児たちの感動的な様子の一部を、それぞれの手記から伝えたい。(文責 北沢杏子)
■3月11日、その瞬間!(石巻市立小学校6年支援学級、K君のお母さんの手記より)
3月11日、午後2時40分頃、自閉症の息子Kを迎えに小学校へ。息子と一緒に昇降口を出た瞬間、揺れた!強い揺れで立っていられず、吹き飛ばされるように転倒。校舎には児童たち、教職員の方たちが残され悲鳴の嵐。揺れる校舎。ベランダから先生が「Kちゃん、がんばれ!」と大声で励ましてくれた。
逃げなきゃ!車で急いで自宅へ。デコボコ道、崩れる家、鳴り響くサイレン、大津波警報のアナウンス。家に戻ると中2の娘が泣きながらガレージの柱にしがみついていた。急いで息子のてんかんの薬、家にあったアクリエを数本、お菓子、パン、毛布をカバンに入れ、娘の通うS中学校へ。狭い教室に100人が避難しており、そのまま一夜を過す。
日向山の向うに煙、炎、爆発音。一晩中鳴り続けるサイレン。校庭は浸水が深く、校舎も1階が水没。雪まで降りだした。海沿いのパパの勤務先の“中学校に津波”との情報。無事かどうかもわからない、ただ祈るだけ。
■3月13日、パパが来た!
まだ水は引かない。支援物資も届かない。午後「○○先生のご家族はいませんか?」と誰かの声がした。瞬間、パパがダメだったのか、とドキッ。「ハイ、私です」と手を上げると、勤務先から瓦礫の中を歩いて、ずぶ濡れのままのパパが現れた。みんなで抱きあって、泣いた、泣いた。ただただ、無事だったことを喜び、家族4人が抱きあって泣いた。
■3月13日、息子Nの場合(石巻市立小学校6年支援学級、N君のお母さんの手記より)
わが家は床上まで浸水し、水が引かないので帰れないとはわかっていたが、車で息子のNと家に向かう。道路は完全に破壊され、泥水が噴き出していた。ひっくり返っている車、山のような瓦礫、商店もグチャグチャ。誰かの自転車を引っ張り出して乗っていく人、落ちているものを平気で持ち去る人……その光景はあまりにも恐ろしく、本当に日本で起きていることなのか?と胸苦しい。だが、自閉症っ子の息子は無反応。息子は人を非難しないし、人の心も傷つけないし、「いつになったら電気がつくんだよッ」とも言わない。不自由な生活の中で不満を漏らすのは、知恵ある人。辛い生活の中で健常者だけが人を傷つけるのかもしれない。
■3月11日、娘E子の場合(石巻市立特別支援学校高等部2年、E子さんのお母さんの手記から)
娘E子は自閉症で聴覚が過敏。E子がお世話になった中学校に避難したが、すでに避難してきた人びとで一杯。大きな声、幼児の泣き声や奇声の飛び交う中で、娘は耳をふさぎ固まってしまった。先生にお願いして、体育館ではなく、なるべく娘の苦手な幼児や赤ちゃんの声が少なそうな教室に避難させていただく。
■3月13日、「E子、いますか?」「E子ちゃん、いますよ」
校舎から見える道路は、まだ水が引いていない。主人は無事だろうか?娘はときどき「おなか空いた」とは言うものの、この状況を理解してか、騒ぐことなく我慢している。夕方、いろんな音がする中で突然「静かに!」と娘が大声で叫び、周囲がシーンとなってしまった。そんなところに突然、主人が教室に来た!いちばん危険な場所で仕事をしていたが、職場のみんなと日和山まで車で逃げて無事だった。その後、腰まで水に浸りながら歩いて、今日やっと、私たちの元に辿りついたのだった。よかった!無事でよかった!
主人は、この中学校に着くなり、「E子、いますか?」と聞いたそうだ。すると「E子さん、いますよ」とすぐ返事が返ってきたとか。「ああ、E子が有名人でよかったよ」と、笑いながら言った。この日から食べ物が支給された。1人3センチの味噌パン1個。娘はおなかがすいていただろうに、1口しか食べなかった。
■3月末、娘のストレスがピークに
夕方突然、娘は大声をあげて周囲の人びとを驚かせた。寝不足と偏食によるストレス、先が見えない不安など、娘のストレスはピークに達し、とうとう限界がきたようだ。避難所に来ていた医療班に相談し、睡眠薬を処方してもらう。
同じ部屋のみなさんは娘と一緒に過す中で、娘の特性を理解し、限界を認めて許してくださった。ありがたかった。
臨場感溢れる文章。K君一家の再会の感動。N君の耐性に、健常者より優れていると見直すお母さん。E子さんのお父さんの「E子が有名人でよかったよ」とのユーモラスな会話。こうした障害児を持つ親たちの、気負わぬ逞しい生き方に深い感動を覚え、ここにお伝えしました。くわしくは、本書をお読みください。
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