2011年10月31日、世界の人口は70億人に達した。1974年に、私が国連人口基金(UNFPA)のロンドン支局を訪ねたとき、人々は、世界の人口が40億に達したこと、これをなんとか抑止するために、「世界中の妊娠可能年齢の女性(15〜49歳)に、徹底した家族計画の情報をゆき渡らさなければ」と、熱く語りあっていたことを思い出す。それが、13年後の1987年には50億に、さらに12年後の1999年には60億に、そして2011年、遂に70億に達したのである。
国連経済社会局人口部2011年5月発表の『世界人口推計・2010年版』は、このままいくと、世界の人口は2050年には93億人に達し、21世紀末までには100億人になるだろうと推計している。この地球の限られたエネルギー、食料、水……今後、人類はどうやって生きのびていくのだろうか?
1994年、カイロで開かれた国際人口開発会議は、「女性・女児の能力を強化し、彼女たちが男性・男児と同等に社会や経済活動に参加でき、妊娠・出産の時期や間隔も含め、自ら自分の人生について決定できることが、人口問題への取組みの進展につながる」と決議した。これが、リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)である。とはいえ、そのための情報と手段が得られないまま、人口増加をくい止められない国もあれば、情報、手段はもとより「子育て支援」制度を充実させたにもかかわらず、出生率を上げられない国もある。
『世界人口白書2011』は、その冒頭で「経済的に最も貧しい国々のいくつかは、出生率の高さ(女性1人が産む子どもの数、ニジェール6.9人、ザンビア6.3人)が開発を滞らせ、貧困を長期化させている」と指摘する一方、「経済的に富裕な国々では、出生率が低いため(スイス1.5人、日本1.4人)、必要な雇用人数を保つことができず、現時点の経済成長を維持し、社会保障制度を存続させていけるのか、との懸念が高まっている」と記している。ここに至って開発途上国における人口増加を抑止すること、および先進諸国における出生率の増加を促進させることは、早急の課題であると考え、前者はモザンビーク共和国の例を、後者はフィンランドの例を、『世界人口白書2011』から転載してみたい。
■ジェンダーの不平等と高い出生率
モザンビークの女性たちは、生涯に平均して5人の子どもを、農村部に住む女性は7人の子どもを産む。女性自身は「3人まで」を希望しているのだが、ジェンダーの不平等がこれを阻んでいる、つまり、女性の地位が低く、それに伴って経済的・社会的地位が低いことが、高出生率の大きな原因になっているという。モザンビークでは女性がものごとを決定することはできない。子どもを何人産むか、いつ産むかについての選択になると特に顕著だ。2009年には、家庭内暴力(DV)を犯罪とする法律が施行されたが、DVは広く蔓延しており、女性が避妊を主張したり、相手にコンドームの使用を頼んだりすると、きまってDVが起こる。さらに農村部では、交通・輸送網が整備されていないため、遠隔地への避妊薬(具)供給が殆ど不可能であり、家族計画の情報もゆきとどかない。加えて、「大家族は富の象徴」といった伝統的な家父長制が出生数の増大に拍車をかけており、その結果、貧困、食糧不足、疾病が、女性と子どもを苦しめている。
■社会保障の充実と出生率
一方、フィンランドの女性の労働参加率は男性とほぼ同等であり、特に都市部で働く女性にとって「子育て支援」制度は女の権利であると考えられている。ヘルシンキでは、すべての子どもが、1日5時間の保育を無条件で受ける権利があり、保育所には十分な数の職員が配置されている。この他に全日保育、夜間保育、週末保育、24時間保育サービスが、(所得に応じて)有料で受けられ、親は保育サービスの種類を選ぶことができる。さらに、すべての母親が105日間の出産有給休暇を取る権利をもち、その後は元の職場で同じ仕事、または同レベルの類似の仕事に戻る権利をもつ。父親は18日間の産休と12日間の育児休暇(パパの1ヵ月)を取ることができる。こうした恵まれた“子育て社会保障”の結果、女性1人の出生率は1.85と、人口維持のために理想とする2.1よりも低いとはいえ、まあまあといったところのようだ。
ただ心配なことは、「第1子の出産年齢が高くなっていること」――と、フィンランド家族連盟の代表者はぼやいている。「女性が初めて家庭をもつ、あるいはもとうと考え始めた頃にはもう、すでに若くない。妊孕力(生殖能力)という意味では、35歳を過ぎると少し遅い。なのに、いまフィンランドでは子どもを産み始めるのが平均37歳。35歳以上の女性は、受胎しにくくなることは知っているが、社会参加に重点を置く結果、体外受精に頼る女性も増えている」と報告している。
さて、日本の少子化(出生率1.4人)は、どこに問題があるのか?考えてみると、モザンビークおよびフィンランドの例と同じ状況が日本にも多々あり、日本の少子化の理由が、女たちの頭の中にどっと浮かび上がってくるのではないだろうか?
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