前回に引きつづきUNFPA(国連人口基金)発行の『世界人口白書2011』から、アジアにおける人口大国インド(12億4,000万人)と中国(13億5,000万人)の人口対策の問題点について記したい。
■インドの男児選好――女児は産みたくない!
インドの男児の出産を選ぶ傾向は、2011年の全国人口センサスの結果、より浮き彫りになった。0歳から6歳までの女児の数は、男児1,000に対し女児914人。この性比は1947年のインド独立以降最大とか。その理由について、全国人口センサスの長官は、人口問題ではなく社会問題だと指摘。超音波検査や羊水穿刺など、テクノロジーの発展に伴って胎児の性別判断が、容易に、しかも安価で得られるため、全国的に広く利用されている。その結果、女児胎児の人工妊娠中絶や、農村部では生まれた女児を育児放棄で故意に死亡させる、などが判明した。
インドでは昔から、女児を持つことをためらわせる経済的理由がある。娘によい夫を得るためには、親が高額のダウリー(持参金)を支払わなければならず、また娘は社会進出が阻止され所得をもたらさないことから、親にとって経済的負担だとみなされる。結婚した女性は、同じ理由から、男児の誕生を希望する家族によって次つぎに妊娠を強いられたり、超音波による性別診断の結果、安全でない中絶を強要されたり、DVの危険にさらされたりしている。
国際機関である世界保健機関(WHO)、国連人口基金(UNFPA)、国連児童基金(UNICEF)他は、こうした現状に対してインド政府に『ジェンダーの偏見に基づく性差別防止を!』として、「そもそも出生率は、人口置換水準である女性1人あたり2.1人(うち1人は次世代の母親となる女児)が望ましいのであり、このインドの異常な性比を解決するには、女児への教育の機会拡大、女性の社会進出の促進、保健サービスの徹底、さらに女子個人のエンパワーメントを目指す社会的活動こそ、優先課題である」と勧告した。
■中国の人口増加抑止――“1人っ子政策”
中国については、『世界人口白書2011』は、なぜか詳しく触れていない。中国の出生率抑止が成功したのは、“1人っ子政策”により、人びとは「子ども1人の方が家計にとっても子どもにとっても価値があり、恩恵が大きいと学習した結果である」と簡単に片付けている。そこで、“1人っ子政策”が打ち出された1979年から1990年まで、私が中国東北地区の性教育講師として招聘されたり、取材したりして各新聞等に寄稿した記事から転載してみたい。
■産む産まないは国家が決める!
1997年、10億の人口(当時)をかかえた中国では、20世紀末の人口を12億に抑えるという目標を掲げ、同年下半期から『晩婚(男性27歳以上、女性25歳以上)、晩育、夫婦1組に子ども1人』という厳しい政策を打ち出した。想像を絶する住宅事情の悪さ(当時)の中で、若いカップルは夜の公園などで辛抱強くデートを重ねながら、許可される結婚年齢まで待つ。晩婚組には優先的に住宅(1室)が与えられ、子どもを1人産んだ後、すぐに避妊手術を行なって証明書を添付し申請すれば、2室の住宅と月額5元の児童手当が支給される。避妊具、避妊手術、人工妊娠中絶は無料。もし2人目の子どもを産んだ場合は、3年分の年収にあたる罰金、または給与の5〜10%を、7年から14年間削減するなど、人権を無視した厳重な“1人っ子政策”であった。
さらに驚かされたのは、「生育指標」という名の“子どもを産んでもいいというキップ”の配布だ。政府は20世紀末の人口12億を目標に年間出生数を弾き出し、その数値内に止めることで人口増加を抑制しようとした。女性は、職場、住宅、健康状態を添付・申請。抽選で出生指標(子産みキップ)を受け取った者だけが、妊娠・出産を許可される。
もし、その年に妊娠しなければ、“子産みキップ”は返還し、次の抽選を待たねばならない。こうして中国の“1人っ子政策”は、功を奏し、女性が生涯に産む子どもの数は1.6人。現在の人口13億5,000万を保っている。
■産みたくても産めない日本!
日本政府は、少子高齢化を理由に、高齢者や障害者など、社会的弱者への福祉費カットや増税をぶち上げている。人口置換率――女性1人あたりの出産率2.1人には程遠い日本の1.4人。それは、インドまではいかないまでも、女性の社会進出を阻む男女間の職種および賃金の格差、保育行政の貧困、子どもの教育費の過重負担、特に農村における老親の介護他、数えあげればきりがない。だが中国のように国家に強制されては大迷惑。産む産まないは女が決める!をキャッチコピーに運動を続けてきた私たち女は、いま、産みたくても産めない社会的状況に追いこまれている。
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