2012. 6月

       
 

性教育は人権教育

―小学校5年生への模擬授業と感想文―

 

 
 

「性を語る会」代表 北沢 杏子

 
       
   

 2012年5月19日、朝日新聞「教育」の頁に、北沢杏子・文、今井弓子・絵の『女の子のからだの絵本』『男の子のからだの絵本』が紹介された。「どうする?性教育」のタイトルに、“体に興味を持ったら……大切な場所、ごまかさず”のサブタイトル。「自分体を知ることは、子どもにとってワクワクすること。おめめ、おくちなどと同じで、性器も体の大切な一部です」とのコメントもついた記事で、性教育バッシングの渦中にある現在、画期的な企画である。絵本の紹介は、発達段階に応じて『おちんちんのえほん』(やまもとなおひで・文、さとうまきこ・絵)、『からだっていいな』(山本直英・片山健作著)に続いて、二次性徴期の子どものための絵本として、上記の私の絵本2冊が紹介された。これを期に発行年月日を見ると、2000年10月1日第1刷、2011年2月10日第9刷とあって、電子書籍時代だというのに、よくも第9刷まで読んでいただけたなと、感慨ひとしおだ。ついで、各「目次」と“あとがき”の一部を紹介したい。

■性教育絵本の目標は、ジェンダーの平等
 この2冊の絵本の目次は、「ひとりひとり ちがっていいんだよ」「どうして、からだは変わっていくのかな?」「わたしのからだと性器」「ぼくのからだと性器」「はずかしいところは、ひとつもないよ!」「男の子の外性器とぼっきのしくみ」「月経ってなーに?」「射精ってなーに?」「すばらしい からだのしくみ」「いのちのはじまりは……」「Q&A こんなことききたいんだけど……」となっており、2冊の絵本を並べてページを繰っていくと、頁毎に同時進行形をとっていて、「からだの中の器官は女の子も男の子もほとんど同じ。だけど、ちょっとだけちがっているところがあるね。そう、それが性器。外性器も内性器もちがっています」と、からだの中の各器官は男女とも同じで、外性器、内性器だけがちょっと違うと、“違い”より“同じ”を強調しているのが特色だ。
 一方、乳房の大小、ペニスの大小、初経・精通の時期や、身長、体重、容姿などの個人差を個性として説明し、「男子は強く、女子は弱い」といった性差別意識を持たないよう配慮すると同時に、二次性徴発現期にみられる劣等感や不安感を抱かないよう、「それが個性ですよ」と、自己肯定感を育む工夫がみられる。
 “あとがき”には 「二次性徴発現期の子どもたち(小4〜小6)は、目に見える体の変化(乳房、わき毛、性毛、ひげ、すね毛、にきび、変声など)には気づきますが、それと連動して起こっている体の中の変化(ホルモン分泌、排卵、月経、精子の産生、夢精、射精、勃起の仕組みなど)は、なかなか理解しにくいものです。女子にとっては男子の、男子にとっては女子の、その外性器・内性器の発達までを科学的に理解すること――それはジェンダーの平等の意識を育てるための重要なキーワードといえるでしょう」と記してある。
 ともすれば各種メディアの過剰な性情報に流されがちな子どもたちが、この絵本を開くことで、自分の体の大切さ、すばらしさに気づくと同時に、異性への正しい理解と思いやりが育てば、将来の望まない妊娠やHIVを含むSTD(性感染症)予防への意識も身につくようになり、デートDVや夫婦間のDVも起こらなくなるのではないか、と再読しながら感じている。

■“いのちの学習”と授業後の児童たちの感想
 私は昨年11月、兵庫県の公立小学校5年生122人を対象に、この絵本も含めた教材を使っての“いのちの学習”を行なった。その後、担当の養護教諭から児童の感想文が送られてきたので、その一部を紹介したい。
●いちばん印象に残ったことは、お母さんは一生のうちで400個も卵子を出し、その中で1個か2個しか命になって生まれてこないのに、僕は400個のうちの1個に入っていたことはすごいなと思いました。
●私は背が低くてみんなに「チビ」といわれてすぐにムカっと怒ってしまうけど、私と同じように背が低い子は笑って平気でいたからすごいなと思いました。だから、私も脳の9番10番※を発達させたいと思います。
●ぼくは親に反抗してしまうことがあります。でも北沢先生は、「大人に向けての成長期で、誰もが通る道だからいいんだよ」と言っていました。だからぼくは、反抗しても、親のことはきらいにならないと思いました。

 なんという豊かな感受性だろう!いま、学力一辺倒の教育現場では性教育の時間は殆ど取れない状況だが、私が理念とする人権教育としての性教育は、二次性徴期にこそ行なうべきだと痛感させられた、子どもたちの感想文だった。

※ブロードマンの脳地図。前頭前野の9番10番(理性)が発達することで、
 本能的な闘争欲を抑えられるようになると指導。


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