A県・県立聾学校の要請で、保護者・教職員参加型の性教育を行う機会に恵まれた。特別支援学校の児童・生徒対象の授業には慣れているが、聾学校は初めてとあって、事前に何冊もの難聴児・者に関する資料を読んだ。手話には、相手の唇の動きを見て理解する「口話法」つまり「日本語対応手話」と、手や顔など全身の動きで意味を表す難聴者自身が主体の「日本手話」の2種類があることを知った。そして授業に備えて、目で見て理解できる手作り教材(卵子と精子のペープサート、赤ちゃんが生まれるお母さん人形)や紙芝居、ブロードマンの脳地図のイラスト、STI(性感染症)の顕微鏡写真、文字プレートも30枚ほど用意して、聾学校へ向け出発。
1ヵ月後、担当教諭から「学校だより」と、児童・生徒の感想文が送られてきたので、転載してみましょう。
《学校だより》 “性に関する教育”〜『思春期教室』の開催〜
「性を語る会」代表 北沢杏子先生を本校にお迎えして、保護者も参加の『思春期教室』を開催した。小学部の児童には「わたしはどうして生まれたの?」、高等部の生徒には「思春期をどう生きるか」のテーマでの授業だったが、自作の教材やビデオを使用しながら子どもたちに問いかけたり、実際に体験学習をさせたりしての内容であった。
子どもたちも、ある場面では照れながら、また別の場面では深くうなずきながら積極的に参加することができた。小学部1年生の児童のひとりは、北沢先生の指示棒を見つけるや、自分が先生役に早変わり!教師・保護者たちを椅子に座らせ“北沢先生”になりきって、指示棒を振りまわしたり、回答を求めたりするので、みんな大笑い!という一場面もあった。
「性教育は『生』の教育であり、生命の誕生から、からだと心の成長、そして死までを考えさせ、自分の人生を自己決定できる人間を育てる教育である」という北沢先生の主張は明確であり、揺るぎない自信と経験に裏打ちされた“性教育の授業”だった。
事前アンケートの質問「心の上で心配なことは何ですか?」について、高等部生徒からの回答は「好きな人がいるのに好きと言えない」「両親が喧嘩をするのが嫌だ」に対しても、「はっきりと自分の思いや考えを相手に伝えることがいちばん大事、納得いかないことは、とことん話し合うこと」とけれんみがない。
また、生徒への性教育の指導には「性に対するきちんとした知識を教えること」「異性(教師も含む)との距離のとり方を理解させること」「インターネット等による歪んだ性情報の刷り込みを正していくこと」の3つに取り組んで欲しい。「『性の学習』においては、教師と生徒の間で、どんなことを言っても叱られず、認められるという雰囲気を作り出すことが大切」とのご教示を下さった。
北沢先生の授業の中で、たくさんの性教育上の専門用語が出てきた。例えば、性器(精巣・卵巣)、性交、勃起、射精、受精、精子、卵子、子宮、月経、排卵、羊水、胎盤、性ホルモン、性毛、一次(二次)性徴、乳腺、声帯、下垂体、尊いいのち、性と人権などである。これらの用語については、保健・体育科をはじめとして家庭科、理科、社会科等の教科や道徳、学活、総合的な学習の時間などにおいて指導が必要である。また、特に高等部の生徒に対しては、北沢先生の授業の中に出てきたことについて話し合いの機会を設け、それぞれの意見をたたかわせて欲しいと思う。
児童・生徒の感想から―
小学部:赤ちゃんが生まれるところがわかった。たのしかった/男の人は男性ホルモンで精子を作って、女性の卵子と合わせて赤ちゃんができることをはじめて知りました。ぼくは、お話を聞いて、体のことをもっと知りたくなりました。また教えてください。
高等部:脳の額のところにある9・10・11番が大切な部分だと知り、ムカついたときは、これを思い出そうと思った/恋愛するときは、責任を持つことが大事だということがわかりました/自分を大切にしなきゃと思いました/自分が子どもを産んだら大事に育てたいと思いました。
北沢杏子より―
すばらしい学校だよりと感想文!みんなの好奇心に満ちた輝く瞳が甦ってきます。初めての聾学校での性教育授業は、わたしにとっても、新しい発見と体験でした。ありがとう!
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