2013年6月26日、米連邦最高裁は、初めて同性婚の権利を認める判決を言い渡した。こうした動きは米国にとどまらず、欧州や南米※でも急速に広まっている。ところが米国では「婚姻に関する法律」が州ごとに異なっており、マサチューセッツ州を初めとして、現在までに12州※※が認めているが、州が認めても、州法の上位にある連邦法、婚姻擁護法があるため、上記のように、いちいち提訴しなければ、婚姻の権利を獲得することができない。
婚姻擁護法は、「婚姻は1人の男性と1人の女性による法的な結合であり、夫婦の相手は異性」と定義している。この法律のほうが上位であるため、州法に基づいて結婚した同性のカップルでも、配偶者ビザがとれない、税法上の優遇措置が適用されない、遺族給付が受けられないなど、さまざまな不都合、不平等な目に遭ってきたのだった。
そうした状況の中で「違反判決が出た!」とあって、ワシントンの最高裁前に集まったLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の人びとや支援者たちは大歓声を上げ、互いに抱き合い喜び合った。が、一方、キリスト教系保守派を中心とした反対派は危機感を強めている。ローマ・カトリック教会の前法王、ベネディクト16世は「同姓婚は社会の平和を脅かす」と、繰返し強く非難してきたではないか!と。
ところが2013年9月19日、今年3月に就任した266代目のフランシスコ法王(76)は、同姓婚、人工妊娠中絶、避妊を非とするカトリック教会の教義を戒め、前任のベネディクト法王時代までの「伝統的な厳格主義的教義では、現代社会が抱える課題とのバランスがとれない」と、インタビューに答え、世界に11億人の信者を擁するカトリック教徒を驚愕させた。彼は史上初のアメリカ大陸出身(アルゼンチン)の法王で、ヨーロッパ以外の出身者が法王の座に就くのは、シリア出身のグレゴリウス3世(在位731〜741年)以来1272年ぶりだとか。新法王は南米出身ということもあって、保守派と改革派の中間的存在で、趣味はサッカーとタンゴ。信条は「清貧」―歴代の法王のように高級車を使わず、バスに乗る。法王の象徴である黄金製の指輪も金メッキで済ませたし、就任時の第一声は「ボナセーラ(こんばんは)」だというから、前述の同姓婚他への伝統的教義を戒めた発言も頷ける。
2013年3月19日、バチカンのサンピエトロ広場で行なわれた就任ミサで新法王は、「貧しき者、弱き者、重んじられない者を守るために(私は)腕を開く。飢える者、渇く者、土地に馴染めぬ者(移民労働者)、守られぬ者、病める者、獄にある者(受刑者)を私は守る」と誓った。このような新法王の「改革」の意欲は、信者らの心をつかんだものの、バチカン中枢での経験は乏しい。バチカンという巨大組織の汚職や縁故主義を改革し、世界的傾向にある信者の教会離れを、どう食い止めるか。聖職者による子どもへの性的虐待事件の対応も急務だ。この性的虐待については1988年、米国で被害者がNGO「SNAP」を設立。公開情報により、米国だけで少なくとも6,100人の神父たちが性的虐待や強姦を行なっていたことが判明した。現在SNAPには、世界65ヵ国の被害者12,000人が参加し、告発に向かっているとか。
フランシスコ新法王はこの件に対し、「権力の座に就き、それを他者のいのちの破壊に用いることは許されない」、「性的虐待の被害者を保護し、罪を犯した者に厳正な法的手段をとる」と決断の意を表明している。今後を、注目したい。
さて、同姓婚に話を戻して、わが国ではどうだろう?昨年2月、日本の成人男女約7万人を対象に電通総研が行なった調査によると、LGBTの割合は5.2%。20人に1人が該当した。だが、日本の婚姻法は、憲法も民法も男女が前提。同性婚容認には程遠い。私の友人でレズビアンの某大学元教授は、長年一緒に暮らした愛する女性に遺産を相続させたいと養子縁組の手続きをとった。戸籍上同じ姓になれたのは喜ばしいことだったが、親族から、相続割合を減らされたとして、養子縁組無効の訴訟を起こされそうだと悩んでいる。
同性愛者であることを公表した尾辻かな子参院議員(38)は、「同性のパートナーと暮らす人たちの権利を、日本でも政治的課題として論議すべきだ」と、決意の程を示しているのだが……。
※同姓婚を認めている主な国々:(認可した年代順)オランダ、ベルギー、カナダ、南アフリカ、ノルウェー、スウェーデン、アルゼンチン、デンマーク、ウルグアイ、フランス
※※(認可した年代順)マサチューセッツ、コネティカット、アイオワ、メーン、バーモント、ニューハンプシャー、ニューヨーク、ワシントン、メリーランド、ロードアイランド、デラウェア、ミネソタ
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