2003年に起こった事件から、提訴→第1審→第2審と進んだ七生養護学校の「こころとからだの学習」裁判は、2013年11月28日、最高裁(金築誠志裁判長)が、原告、被告双方ともに上告を棄却。高裁差し戻しで、結果的に、勝訴が決定!この10年間の教育闘争の経緯を報告します。
七生養護学校(現・特別支援学校)は、知的障害児が学ぶ学校で、併設の七生福祉園(児童養護施設)の知的障害児がクラスの50%を占めています。特に施設から通ってくる児童・生徒は、幼児期からの虐待やネグレクトなど、さまざまな成育歴を抱えている子どもが少なくないため、自己肯定感が低く、思春期にさしかかると児童・生徒間の性的問題行動が、しばしば暴発するのでした。教職員たちは、この子どもたちに「いのちの大切さ」と思いやりの心、自己肯定感と「生きる力」を与えたいと考えました。そして試行錯誤の末に行き着いたのが「性教育」だったのです。
とはいえ、知的障害を持つ子どもたちですから、その指導法も教材も、耳で聴き目で見て理解できる具体的なものでなければなりません。そこで、「からだうた」でからだの各部位の名称を覚える。手作りの「子宮体験袋」にもぐり込んで、自分がお母さんのどこからどう生まれてきたかを実感させる。高等部の生徒には、社会に出た後に困らないよう、性交・妊娠・避妊などの知識を身につけさせようと、さまざまな工夫をこらしました。
ところが突然、以下のような事件が起こったのです。
@2003年7月2日の東京都議会本会議の席上、“日本の家庭を守る地方議員の会”の土屋都議が、七生養護学校の指導を例に「不適切な性教育」として質問。横山教育長(当時)は、ただちに是正と教材廃棄を答弁。
A同年7月4日、土屋、古賀、田代の3都議が、産経新聞記者を同行させて、七生養護学校を「視察」。同紙は翌日の朝刊で、『過激な性教育、まるでアダルトショップのよう』と報道。
Bその直後、指導主事が大挙して押しかけ、全教職員から「事情聴取」。
C七生の性教育教材の「没収」、授業の監視、年間指導計画の改悪。
Dついで、都立盲・聾・養護学校全校を調査。教育内容、学級編成、勤務時間、研修などを「不適切」として不当処分。
E同年9月11日、七生の前校長(金崎 満氏)の降格をはじめ、教職員116名に上る大量処分を強行。
F同年10月23日、管理職権限の強化と、都教委の意に沿わない管理職に対する「処分」ルールを確立―と、強引に学校教育に介入してきたのです。こうして七生の教職員29人と保護者2人の31人が、2005年5月12日に、東京地方裁判所に提訴。被告は東京都教育委員会、東京都議3名、産経新聞記者1名です。
私は、この裁判の支援者の1人として、ずっと法廷の傍聴に通いました。
東京地裁(第1審)の判決(矢尾 渉裁判長)は、以下の3点を認めた点で教育裁判史上画期的な判決となりました。
@政治家である都議らが、七生養護学校(以下七生)の性教育に介入・干渉したことは、七生の教育の自主性を阻害し、これを歪める危険のある行為として、旧教育基本法10条1項の「不当な支配」にあたる。
A都教委の職員らは、このような「不当な支配」から七生の個々の教員を保護する義務があるにもかかわらず、都議らの政治介入を放置した。つまり保護義務違反である。
B七生の性教育に対する政治介入の衝撃は、七生の教員、生徒、保護者にとどまらず、広く全国の学校現場での性教育実践者にも多大な影響を及ぼした。“性教育の内容が不適切だ”として、七生の教員らの他校への強制配転や、前校長の降格処分などの制裁的取扱いが実行されるや、全国の養護学校、公立小・中学校の性教育担当教員を萎縮させ、性教育の時間は大幅に削減されるに至った、の3点です。
東京高裁(第2審)の判決(大橋宣明裁判長)は、第1審の判決に加えて、「知的障害を有する児童生徒は、性被害・加害者になりやすいことから、むしろ、より早期に、より平易に、より具体的(視覚的)に、繰り返し教えることが、発達段階に応じた教育である」と、明解な判決文を読み上げました。
今回の、この最高裁判決(高裁差し戻し)は、国や地方自治体による教育への不当介入が強いられようとしている現在、教育の自主性を守り、教育の本質を確立する上で、重要な意義を持つものといえるでしょう。
感想をお寄せください
|