「現行の教育制度を抜本的に改革する!」、安倍首相は1月28日(2014年)、衆議院本会議で、こう表明した。
政治からの中立を保ってきた教育委員会の権限を、自治体の首長(東京都なら都知事)に移し、政治主導の教育行政に変えるのが狙いだ。そして3月にも関連法改正(悪)案を国会に提出する構えで、実現すれば戦後教育の大転換となる。
教育委員会は、1948年、教育が政治に左右された戦前の反省から、「政治権力を教育に介入させないために」創設。初期は公選制だったが、反政治的な対立の影響を受けやすいと、1956年、任命制に。自治体の長(首長)が任命した5人の教育委員が、教科書採択や教員人事など、教育の方針・施策を合議で決めるシステムとなり、今日に至っている。
ところが自民党は、2012年9月、安倍信三氏が総裁に就任すると、即、教育再生実行本部を発足させ、11月には中間報告として、教育委員会を「無責任な教育行政システム」と批判。「首長が任命する教育長を責任者に」、「委員はその諮問機関とする」という見直し案を提出した。
翌12月(2012年)に、衆議院選挙で安倍政権が発足するや、政府の中央教育審議会(中教審)は、「地方教育行政の最終責任を、教委から首長に移す」改革案を下村文部科学大臣に提出、答申を求めた。@首長が教育行政の大綱的な方針を策定。A首長が任命・罷免できる教育長が、日常事務を執行。B教育委員会は、大綱方針などを審議することができる、と。この改革案は、3月にも通常国会に提出される。
首長が教育行政の権限を持つと、どうなるか?その1例を挙げてみよう。
1999年に国旗・国歌法が成立したあとの2003年、石原慎太郎東京都知事(当時)が任命した都教委は、教職員に日の丸掲揚・君が代の起立斉唱を義務付ける通達を出し、応じない教職員には、減給や停職の懲戒処分を行なった。
2011年3月には、橋下大阪市長が任命した府立高校の校長が、卒業式に教職員が(起立はしたものの)、「君が代を斉唱しているかどうか」その口元をチェックするよう指示。猪瀬東京都知事(当時)のもとでは、都教委が某出版社刊の日本史教科書を「不適切」と通告したのを皮切りに、神奈川県教委、埼玉県教委が同調。都教委の動きは各地の教育委員会に広がっていったのである。
さて、2014年1月7日には、下村文部科学大臣が記者会見で、「日本史必修化を検討中」と語り、続いて道徳の教科化、教科書検定の見直し、領土教育徹底のための学習指導要領解説書の改訂など、右傾化を示唆した。
1月28日、遂に学習指導要領解説書を改訂し、「尖閣諸島と竹島について、わが国固有の領土と明記する」と指示。中学・高校の教職員や教科書出版社からは懸念の声があがった。教科書出版社の編集者は「中国が尖閣諸島の領有権を主張していることなど、日本とは異なる外国の主張を載せることが難しくなりかねない」「教科書執筆者の自由度が低下する」と心配する。
高校社会科教諭の1人は、「教育の目的は、生徒が様々な立場を理解して、問題を解決する能力をつけることにある。“中国・韓国はけしからん”というだけでは、対話の力につながらない」と力説。とはいえ「教員が萎縮して、他国の異なる背景や主張を十分に教えなくなるのでは?」と、今回の指導要領解説書改訂の教育現場への影響を恐れている。
教育の右傾化は、いまに、教科書だけではなく、日常生活の中にも入り込んでくるかも。私が読んでいる『愛国の技法―神国日本の愛のかたち』(早川タダノリ著 青弓社 2014年1月刊)は、全巻すべて、戦前の“愛国の技法”で構成されており、興味深い。1例を挙げると、タイトル「嫁ぐ日には、日の丸を!」の頁は、イラスト入りで「日の丸行進曲」の一節が載っている。
♪ひとりの姉が嫁ぐ宵/買ったばかりの日の丸を/運ぶたんすの引き出しへ/母が納めた感激を/今も思えば目がうるむ♪♪
結婚する娘には国旗を持たせ、祝祭日には国旗掲揚をするようにせよというのが「母親の義務」だとする―教育はもとより、家庭にまで政治が介入した、過去の歴史を、繰返してはならないと思う。
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