2014. 3月

       
 


NHK新会長の就任会見

          ―どうなる?「公共放送」の行方

   
 

「性を語る会」代表 北沢 杏子

 
       
 

 2014年1月25日、NHK新会長籾井勝人氏(70)の就任会見をテレビで観た。腕組みをして横柄な面がまえだ。その発言を要約すると、@「慰安婦」問題―戦争をしているどの国にもあった。ドイツやフランスにはなかったと言えるのか。韓国は「日韓条約」で解決していることを、なぜ今蒸し返すのか。A尖閣諸島―日本の明確な領土。国民にきちっと理解させる必要がある。B国際放送―政府が右ということを左というわけにはいかない。C靖国神社参拝―総理が信念で行かれたことで、それはそれでよろしい。D秘密保護法―通っちゃったんで、どうこう言ってもしょうがないと思う、との放言。この発言に対し、NHKには1万件を越える抗議の声が届いている。

mizuyoshi hasegawa/絵

 NHK経営委員会は12人で構成、任期は3年。昨年(2013)11月に12人中5人が任期終了し、国会が任命した新5人に交代した。籾井会長は新任を含む12人の推薦によるものだが、前述の放言を反省するどころか、「それほど大変な失言をしたというのか」と開き直る始末。
 これに対し浜田健一郎委員長は2月25日のNHK経営委員会で「ご自分の立場に対する理解が不十分!」と忠告。加えて同日、籾井氏が、NHKの報道、制作、経営、企画に携わってきたベテラン10名の理事全員に「(好き勝手に首をすげ替えることができる)日付欄を空白にした辞表を提出させていた」ことが発覚。メディアは『NHK経営委、会長の言動に再忠告!理事ら離反』と大きく報道した。そもそも経営委員会とは、NHKの年間予算、事業計画、番組・編集の基本計画などの議決権や会長の任免権を持つ最高意思決定機関である。なのに、こういう人物をトップの座に据えることで、放送の内容が規定され、いつの間にかわれわれ視聴者も洗脳されるかも、と思うと空恐ろしい限りだ。

 「公共放送」であるNHKには、厳守すべき放送法がある。放送法とは、テレビ、ラジオ放送の事業者や番組他について定めた法律で、@不偏不党、A自律、B表現の自由、C健全な民主主義の発達に資すること、D政治的に公平であること、E意見が対立している問題は、多様な角度から論点を明らかにすること、F番組編集の自由(編集権の独立)を定めている。だが、このような人物が会長のNHK、果たして中立・公平な報道が届けられるだろうか?報道および番組スタッフは萎縮して、会長の発言同様に「政府が右ということを左というわけにはいかない」となるのではないか?

 次に、同じく新任の経営委員の1人、埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏(67)、彼女は2014年1月6日の某新聞のコラムで、日本の少子化問題の解決策として、「女性が家で子を産み育て、男性が妻と子を養うのが合理的」、「性別役割分担は哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然」であり、夫は外、妻が家が理想的!と主張し、更に「男女雇用機会均等法は個人の生き方への干渉だ」と批判。これに対し、女たちの怒りが噴出。ツイッターで2000件以上の意見が書き込まれた。「時代に逆行している!」と。
 氏は、これまでにも「婚外子」の相続差別規定廃止の最高裁判決を批判し、「選択的夫婦別姓」にも反対してきた。更に、委員就任前の2013年10月、新右翼の著名な活動家 野村秋介氏が、朝日新聞本社で拳銃自殺した、没後20周年の記念日に追悼文を寄稿している。この事件は、朝日新聞がマンガで、彼が代表を務める政治団体「風の会」を連想させる「虱の会」という表現をしたことに抗議。同社社長の前で「俺は朝日新聞と刺しちがえる」と叫んだあと、「すめらみこと、いやさか」と繰り返し、拳銃自殺を図ったが、搬送先の病院で死亡(1993年10月20日)という不気味な事件である。長谷川三千子氏の追悼文は「“すめらみこと、いやさか”と唱えて彼がそこに呼び出したのは、日本の神々の遠い子孫であり現御神であられる天皇陛下であった……」というものだったとか。なんという時代錯誤の思想の持ち主だろう。この人がNHK経営委員なのである。

 新任5人の中のもう1人の経営委員、作家の百田尚樹氏(57)は、東京都知事選で田母神俊雄氏の応援演説に立ったが、2月3日(2014年)には、朝一番の新宿駅西口で、かつての「米国による原爆投下や東京大空襲は大虐殺」、「極東軍事裁判(東京裁判)はアメリカが自分たちの罪をごまかすための裁判だった」と、持論を展開。他の候補者たちを「人間のくずみたいなもの」と繰返しおとしめた。以上、NHK新会長および2人の新経営委員の人物像について、どうしても書き止めておかねばという思いから、一挙に書き上げた次第である。

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