2014. 11月
「性と生殖に関する健康/権利」から指弾する生殖技術の飛躍的発展 そのT
■世界の人口増加と「カイロ・国際人口会議」
2011年10月31日、世界の人口は70億人に達した。 1974年に、私がIPPF(国際家族計画連盟)のロンドン本部を訪ねたとき、スタッフの人々が、世界の人口が40億人に達したこと、これをなんとか抑止するために、「世界中の妊娠可能年齢の女性(15〜49歳)に、徹底した家族計画の情報をゆき渡らせなければ」と、熱く語りあっていたことを思い出す。ところが、13年後の1987年には50億人に、さらに12年後の1999年には60億人に、そして2011年、遂に70億人に達したのである。
話は遡るが、1974年、1984年および1994年の3度にわたって国連は、この止どめようもない人口増加問題対処の必要性について、世界的コンセンサスをはかるための「国際人口会議」を開催した。
中でも1994年のカイロにおける、世界179ヵ国の政府機関およびNGOを結集しての国際人口会議では、産む主体である女性への『教育と保健サービス』『技能開発と雇用』『意思決定の選択肢』を提供することによって(それまでとってきた、数値目標達成の人口抑制政策から)、個々の女性へのニーズの充足およびエンパワーメントへと、重点を大きくシフトさせたのである。
■行動計画 「性と生殖に関する健康/権利」
その行動計画全16章の中の第7章が、「性と生殖に関する健康/権利」だ。この第7章を政策的に進めることによって、途上国の女児・女性への教育、雇用、意思決定(特に子どもを何人産むか?の自己決定権の獲得)、更に、児童婚、性器切除、一夫多妻制他の悪習から女児・女性を解放し、「性と生殖に関する健康」を保障する―としたところに、カイロ国際人口会議の意義がある。
2014年10月10日、最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)は、「すべての女子に教育を!」と訴えている。世界中の女子が教育を受け、識字率を上げることで、あらゆる因習、貧困、宗教的抑圧から解放され、さらに雇用につなぐ―これで初めて、経済的にも独立した女性として、性と生殖に関する健康が保障されると、私は考える。紛争の絶えない現在の世界情勢の中、この理想の実現は、程遠いかもしれないが……。一方、先進国では“少子高齢化”が進み、これを何とか回復するべく、生殖技術の開発・研究・実施に突入している。
■スウェーデン―世界初の「移植子宮」で出産!
2014年10月3日、「子宮移植を受けたスウェーデンの女性(36)が男児を出産」と、同国イェーテボリ大学のチームが、英医学誌“ランセット”に発表した。
移植を受けた女性は、卵巣はあるが、生まれつき子宮がなかったため、昨2013年、閉経した知人女性から子宮の提供を受け移植。自身の卵子と夫の精子を体外受精させた受精卵を、移植した子宮に戻して妊娠に成功した。が、妊娠31週で胎児の心拍に異常が出たことから、今年9月、帝王切開で出産。新生児の体重は1,775グラムとやや軽いものの、母子とも健康で、すでに退院している。チームによると、現在、子宮移植を受けて妊娠中の女性は、他に7人おり、慎重に見守っているとか。
だが、生殖技術の飛躍的な進歩とはいえ、他者の子宮を移植することの妥当性や、提供者の身体的リスク、また「心停止」や「脳死」の女性からの子宮を移植することの、倫理的な問題も指摘されている。
■子宮移植、日本では?
日本では2014年8月17日、「日本子宮移植研究会」に所属する慶応大学、東京大学、京都大学のチームが、指針のたたき台を公表。「倫理委員会」を設け、正式な指針を作成した後、移植実施に踏み出す模様だ。
日本には、子宮がないため妊娠できない20〜30代の女性が6〜7万人いると推定されており、指針が確定すれば、子宮移植研究会および子宮移植施設の「倫理委員会」に臨床研究計画を提出し、承認を得て即、実施―という流れになると見られる。では、指針のたたき台とは?つづきは、次号に。