2014. 12月

 

「性と生殖に関する健康/権利」から指弾する生殖技術の飛躍的発展 そのU

 

■「日本子宮移植研究会」所属の3大学のチームが出した「子宮移植」指針のたたき台とは?
 たたき台には、@移植の対象者は、生まれつき子宮がない女性、がんの治療などで子宮の摘出手術を受けた女性。A子宮提供者は、当事者の母親か姉妹らのほか、「心停止」が確認された女性、「脳死」と判定された女性、さらに性同一性障害で「性別適合手術」が確定したFtM※の女性を想定。B提供は、提供者の自発的な意思によるものでなければならない。C営利目的による子宮の売買、あっせんの禁止―とある。

■自民党のプロジェクトチーム、「代理出産」関連法案を発表
 2014年4月30日、生殖補助医療の法整備を検討中の自民党・プロジェクトチームは、「代理出産」を限定的に認める関連法案の骨子をまとめた。当法案は(前述の「子宮移植」の指針と同じく)、@先天的に子宮がない場合や、治療で子宮を摘出した女性に限る。A夫の精子や妻の卵子が原因で妊娠できない夫婦に限り、第三者の精子や卵子の提供を認める。B第三者の精子・卵子の提供は、厚生労働省が認定した医療機関に限定。C営利目的の代理出産および精子・卵子の売買を禁止し、罰則を規定―としている。

■日本産婦人科学会が「体外受精を受けられる条件」を決定
 続いて2014年6月21日、日本産婦人科学会(以下 日産婦)は、体外受精を受けられる対象に、婚姻届を出していない「事実婚」※※の夫婦も含める方針を決定した。
 「法律婚」でない事実婚カップルの“体外受精容認見直し”の理由については、「現在、婚姻だけでない夫婦関係も広がってきており、事実婚に対する社会的コンセンサス(合意)もあるから」と説明している。私は、法務省が1996年と2010年の2回にわたって提出した「選択的夫婦別姓」制の民法改正に賛成なのだが、当時の政権は、これを否決して今日に至っている。
 選択的夫婦別姓否決の理由は、保守系議員ら(安倍晋三首相もそのメンバー)から、「家族の崩壊を助長する」「日本の伝統を壊す」などの反対意見が噴出した結果なのだが、「社会的コンセンサスもある現状につき、事実婚カップルにも“第三者提供の体外受精も可”」との日産婦の方針と矛盾する。となると、少子高齢化社会をなんとか食い止めようとする、現政権の日産婦への要望による「人口政策の策略の結果では?」と、かんぐりたくもなるのである。

■夫の実父の精子で生まれた赤ちゃん118人!
 折も折、2014年7月29日、長野県の「諏訪マタニティクリニック」が不妊夫婦を対象に「夫の実父からの精子で体外受精を実施し、118人のあかちゃんが生まれた」との報道に驚かされた。
 クリニック側の話では、1996年11月から2013年末までに、無精子症などの夫に不妊の原因がある夫婦110組に、夫の実父から提供された精子を、妻の卵子に体外受精した結果、79組が妊娠・出産し、2回以上(同じ方法で)出産した19組を含め、118人のあかちゃんが生まれたという。
 日産婦が規定した体外受精許可の方針は、あくまでも第三者による精子提供であり、「提供者は匿名」とされているのだが、この場合は明らかに、精子提供者は夫の父親だ。
 となると、こうした子どもと家族を構成しても、前述の保守系議員のいう「家族の崩壊」は、まぬがれるのか?さらに、成長した子どもが自分の「出自」に疑問を持つのは当然であり、子どもの出自を知る権利を、どう保障するのか?
 それとも、夫の父親の精子での子どもなら、遺産相続など、直系の子孫が引き継ぐメリットがあり、「第三者の精子より有益だ」とでも考えたのか?子どもの“出自”については嘘を通し続けるつもりなのか? これこそ「家父長制の名残り」であり、「いのちの欺瞞」としか言いようのない、エスカレートする生殖技術の結果ではないだろうか?

■過激化する生殖技術は、女性に幸福をもたらさない!
 地球人口の激増に対する対処として、1994年の国際人口会議が採択した「性と生殖に関する健康/権利」は、いま、国の政策や家父長制、さらには生殖技術の過当競争によって、その本質的意味を失う危機にさらされている。
 『リプロダクティブヘルス/ライツ』とは、「生殖に関与する主体である女性が、産む、産まないの選択をはじめ、生殖医療技術に振りまわされることなく、自由かつ健康であることが保障される権利を持つ」と、私は解釈している。故に、この過激なまでの生殖技術の過当競争を、今後とも指弾し続けたいと思うのである。 

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※Female to Male:身体的には女性であるが、性自認が男性である人。
※※民法では、婚姻届を出した夫婦に対してのみ「法律婚」として認めている。



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