2015. 1月

 

不妊の原因としての精子の老化について

 ■「嫁して3年、子なきは去る」の貝原益軒先生にムッ!!
 「七去」という言葉をご存知だろうか?七去とは、妻を離縁できる7つの事由のこと。儒教の「大戴礼」が原本で、日本では貝原益軒の「和俗童子訓」、第5巻の「女子を教える法」に記述され、これをもとに1716年、「女大学」のタイトルで出版。江戸時代中期から、なんと1940年ごろまで通用したというのだから驚きだ。その、夫側からの離婚できる7つの事由とは、
@義父母(夫の父母)に従わない妻/A子どもを産めない妻/B夫以外の男性に近づく妻/C夫の女性関係を嫉妬する妻D家族にうつる重い病気を持つ妻/E家の方針にあれこれ口を挟む妻/F家の財産を乱費する妻―とあって、これが日本の「律令※」でも採用されていたというのだから、家父長制、男尊女卑のムカつく離婚条件だ。私も、いま調べて初めて知ったのだが、そういえば「嫁して3年、子なきは去る」という文言は、どこかで聞いた覚えがある。つまり、不妊の女性たちは、その原因が男性側にもあることを知らされずに、1世紀近く、肩身の狭い思いをしてきたのだ。
 ここではAの「子どもを産めない女とは離婚できる」という、一方的な女性差別への医学的反論を述べる。

■不妊の原因は、女性だけにあるのか?
 わが国では現在、晩婚化が進み、35歳以上の高齢妊娠・出産が全出産数の1/4を占めている。そして、高齢女性の不妊や流産の原因は卵子の老化にあるといわれてきた。もともと、排卵のための原始卵胞は、生まれる前の胎生児の卵巣の中に既に200万個備わっており、この数は増えることなく、加齢と共に減っていく。初経の頃には38万個あった卵胞は、36〜40歳では6万個に、それ以降は5000個に……という具合に。
 この卵胞が成熟して、1ヵ月に1個排卵するわけだから、卵胞の数が減れば、それだけ成熟・排卵する数も減り、妊娠する確率が下がってくると言われている。つまり最近まで、「不妊は女性側の問題」とされてきたのだ。
 過日、私は新聞で、日本家族計画協会会長・北村邦夫氏の次のような記事を読んだ。「いま、高齢妊娠と染色体異常児出産の原因として、卵子の老化ばかりが問題にされているが、精子の受精能力も35歳を超える頃から衰えていく。つまり、男性側と女性側のどちらの要件が欠けても、妊娠は成立しないということを、高校の保健体育の時間に、男女必修で、科学的かつ具体的に教えておくことが必要だ」と。そこで私は即、北村邦夫氏にインタビューを申し入れ、取材させて頂いた。その後、さまざまな資料を読んで、わかったことを、ここに報告する。

■男性の精子の老化も不妊の原因!

 WHO(世界保健機関)は、精液検査の基準値として、1回の射精による精液が、「これ以下なら異常」だという6項目の数値※※を挙げている。@精液量 1.5mL以上/A精子濃度 精液1mL中に1500万個以上/B精子の運動率 40%以上C正常形態の精子率 4%以上/D総精子数3900万個以上/白血球数 精液1mL中に100万個未満―と。
 精子濃度は、精液1mL中に最低1500万個以上となっているが、1億、2億、3億と多いほうが受精しやすくなるのは当然。運動率も40%となっているが、50〜60%のほうが妊娠しやすくなることは明らかだ。精液・精子の検査で、精子濃度が低ければ「乏精子症」、奇形精子が多ければ「奇形精子症」、精子が全くない場合は「無精子症」と診断される。

■不妊検査や治療は、夫婦共に受けよう!
 ……というわけで、男性も、加齢と共に精子数や運動率が低下し、受精率や妊娠可能率も下るということを理解すれば、女性ばかりが不妊治療で苦労しなくても、男性側の検査や治療(この方がずっと簡単)も、話し合って共に進めることができ、女性側のストレスも氷解するに違いない。
 ストレスといえば、精子老化の原因のひとつに「酸化ストレス」がある。精子は、酸化ストレスによってフラグメンテーション(断片化)が起こる。つまり、精子のDNAが傷ついてダメージを受け、受精能力低下につながるという。
 そもそも、人間の体温は36〜37℃だが、精巣で精子が作られる際の適温は34〜35℃。故に精子が作られる精巣は、精のうという伸び縮み自在な袋に納められて、股間にぶら下がっている。そして、暑い時には、精のうの面積を広げて、精巣内の温度を下げ、寒い時には、縮み上がって体に近づけて温度を上げ、連日せっせと精子を産生しているのだ。

■いま、精子のために気をつけること―
 精子産生のプロセスで、現在、問題視されているのは「ノートパソコンのひざ置き男性」らしい。電車の中、駅や公園のベンチなど、どこでもみられる風景だが、これがズボンを通して精巣の温度を加熱し、精子の酸化が起こる。酸化とは、リンゴにたとえると、リンゴの切り口を放っておくと薄茶色に変化する現象を想像するとわかりやすいだろう。
 もうひとつ、携帯電話やパソコンから発する電磁波の影響もある。「IT機器は下半身から遠ざけておく心掛けが必要」とは、獨協医科大学 泌尿器科のDr.小堀善有氏の忠告である。
 これで分かりましたか?不妊・流産の原因は「卵子の老化」および、「精子の老化」によるものだということが……。

※律は刑法、令は行政法、訴訟法、民事法 他    
※※2010年 WHO発表


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