2015. 2月
『性と生殖に関する健康と権利』は守られているか?
■はじめに―
1990年代前半は、世界中の全女性にとって重要な国際会議が続々開催された。1992年、リオデジャネイロで開かれた「環境開発会議」、1994年のカイロ「国際人口開発会議」、1995年の北京「世界女性会議」である。
カイロでの「国際人口開発会議」で採択されたのが、本稿のタイトル「性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health / Rights)」(以下 リプロヘルス/ライツ)である。爆発的に増え続ける世界の人口(現在約70億人余)に対するそれまでの人口抑制政策に代って、1994年の「リプロヘルス/ライツ」宣言は、人びと(特に女性)が、安全で安心な性的生活を営むことができ、生殖能力を持ち、子どもを産むか・産まないか、いつ産むか、何人産むかを、自己決定する権利を持つことによって、健康を保持し、かつ、世界の人口を抑制しようとした、前進的な条文であった。
■「世界女性会議」で採択された「女性と少女の人権」
翌1995年、中国・北京で開かれた第4回「世界女性会議」は、参加国189ヵ国、参加者総数50,000人という史上空前の規模となったが、なかでも画期的だったのは、その宣言文の条文に(途上国が強く要求した)「女性と少女の人権」を謳ったことである。
特に“少女”の項目が加えられたのは、途上国の少女たちが産む・産まないの決定権を持たないが故の、人口急増と貧困、14〜15歳の若い母親と子どもの栄養失調と疾病、さらに宗教的・民俗的な家父長制による少女の性器切除、児童婚他の健康被害を、世界に向けて告発する意味があった。にもかかわらず、これらの習慣は廃止されることなく続いており、つい最近では、イスラム過激派「ボコ・ハラム」に誘拐された10歳前後の少女が、体に爆発物を巻きつけられ、遠隔操作で爆死させられるという、アフリカ・ナイジェリアの市場での爆撃行為まで発生している。
■途上国の女性たちが抱える諸問題
現在も行われている、上記の因習としての「児童婚」についての、インドの少女の告発文を転載してみよう。
『私は16歳になるまで学校を休んだことがありませんでした。私の夢は、奨学金を受けて大学に進み、いい仕事について、いま住んでいる貧しい家から両親を連れ出してあげることでした。
ある日、“すべてを置いて家を出なさい”と言われました。両親は兄の結婚相手の少女と私を取り引き※したのです。私は母親と一緒に父に泣いて頼みましたが駄目でした。私のわずかな希望は、夫が学校を卒業させてくれると約束してくれたことでした。でも、17歳で妊娠させられて出産。私の地域では、女が一人で家から外へ出ることは許されません。家に誰もいないときは、古い教科書を読んで、赤ん坊を抱きしめながら泣いています。赤ん坊は可愛い女の子ですが、家族は“男の子を産まなかった”と、私を責めるのです』(UNFPA 世界人口白書 2013 より)
この他、男性優位社会※※により引き起こされる日常的な諸問題を挙げると、
妻の望まない妊娠や性感染症感染の心配を、夫はまったく受け入れず、コンドームの使用を拒否。/部族長が部落の少女たちを集め、“腟がつるつるしていては男性の性感が半減するから、この砂粒を塗れ”と砂粒を渡して命令する。/“エイズウィルスに感染したら、幼女とセックスすれば治る”とのデマが流れ、幼い女の子たちが性虐待にさらされている……他、救いようのない現実が報告されている。
■日本の少女たちは「リプロヘルス/ライツ」を信条としているか?
では、日本の少女・女性はどうだろうか?私が相談を受けた実例を挙げると、
彼にアダルトビデオを無理に見せられ、同じポーズでやらせろと脅迫されている。/“俺は外出し(腟外射精)の名人だから”と、コンドームをつけてくれない。/デートDVで、携帯のアドレスを自分以外は全部消せと強制する。/来月出産だというのに、彼が行方不明に。出産したら「赤ちゃんポスト」に直行する他はないと考えているなど(表面には現われないものの)、リプロヘルス/ライツとは程遠い日本の実態がある。
■むすび
私は1998年から2005年にかけて、国際協力機構(JICA)のリプロヘルスIEC専門家派遣員として、アジア・アフリカ何カ国かの研修会でワークショップを行ってきた。そして、全世界の女性・少女が「性と生殖に関する健康」の趣旨を熟知し、その権利を主張し続けなければならないと痛感している。
※ インドでは、娘の結婚相手にダウリという膨大な持参金を持たせなければならない習慣があり、ダウリの代りに「交換結婚」が行われるatta-sattaがある。また、男の子はダウリの必要がないため、胎児検診で女児とわかると「中絶」を強制され、女の子を産んだ母親は責められる。
※※ 日本―女性の格差。“世界経済フォーラム”の男女格差報告(2013年版)で、日本は136カ国中105位。