2015. 3月

 

「性と生殖に関する健康/権利」から指弾する生殖技術の飛躍的発展 そのV

これは、「北沢杏子の月替りメッセージ」2014年11月、12月の続篇です。

■受精卵の染色体のすべてを調べる「着床前スクリーニング」
 日本産婦人科学会(以下 日産婦)は、2015年2月7日、体外受精で作られた「受精卵」の染色体のすべてを調べる「着床前スクリーニング」の臨床研究開始を決定した。染色体に異常があると、流産や先天的な病気を持つ子どもが生まれる懸念があるからだ、と。
 その前に、『体外受精』について知っておく必要があるだろう。

 卵巣から卵子を@採取し、そこに夫の精子または、第三者から提供された精子を注入して、A受精卵を作り、受精卵が細胞分裂して発育が進んだ段階で、B子宮に移植する方法。

 @「顕微授精」といって、採卵した卵子に顕微鏡下で、精子を1個だけ注入。受精に成功したら、A細胞分裂して発育が進んだことを見極めた上で、その受精卵をB子宮に移植する方法だ。
 今回の日産婦の決定は、受精に成功した受精卵を子宮に戻す前に、受精卵のすべての染色体を調べて、異常がなかった受精卵だけを、子宮に戻そうという試みである。

■「新型出生前診断」で中絶が激増!
 話は遡るが、2013年3月9日、日産婦は、妊婦の血液を調べるだけで、胎児のダウン症他、先天的な異常を判定する「新型出生前診断」検査を、出産時に35歳以上の高齢妊婦に限り、認める指針を決定。同年4月から、日本医学会が認定する複数の医療機関での検査が始まった。この新型出生前診断は、米国のシーケノム社が検査技術を開発し、2011年10月から開始したもので、特許はシーケノム社にある。
 そのため日産婦も、妊婦から採取した血液を、ここに依頼し結果を告げるのだが、この検査で「陽性」と判定された場合、更に羊水検査を受けることで、胎児が異常か否かが判明すると規定されている。
 にもかかわらず、この最終的な羊水検査を受けずに「中絶」する女性が増え、現在、「生命倫理上の問題」とされる意見や、さらに、「新型出生前診断」で異常がみつかった妊婦に対する、心身のケアも、充分に整っていない現状こそ問題だと指摘する意見も出されている。
 このように、「新型出生前診断」でも課題が残っているのに、冒頭の、体外受精で作った受精卵の染色体のすべてまで検査する「着床前スクリーニング」は、いのちの萌芽への更なる介入といえるのではないだろうか。

■「親3人」を認める体外受精の新技術―3方向IVF
 折も折、2月3日(2015年)、3人の遺伝子を受け継ぐ新たな体外受精技術導入を認める法案が、英国の下院で可決された。「3方向IVF(体外受精)」と呼ばれるこの技術は、細胞内に多数あるミトコンドリアに異常があると認められた母親の受精卵から、「細胞核」を取り出し、健康なドナー女性の正常な卵子を使った受精卵の細胞核と交換して胚を作成―母親の子宮に戻して、妊娠・出産と進む。
 こうすれば、生まれた子どもは、脳や骨格に異常が生じる母系遺伝のミトコンドリア病を回避できるというのである。英国では、治療対象となる夫婦は、年間150組と推定されており、父、母、ドナー女性の3人の遺伝子を持つあかちゃんが、来年にも生まれるかも……と報道されている。(次号に続く)

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