2015. 4月
「性と生殖に関する健康/権利」から指弾する生殖技術の飛躍的発展 そのW
■不妊対策としての生殖技術―「卵巣凍結」
いま、がん治療の影響で不妊になるのを防ぐため、卵巣組織を凍結保存しておき、治療後に戻す技術が、東京・順天堂大学医学部付属病院で試みられている。
血液がんの一種「悪性リンパ腫」と診断された20代後半の女性は、抗がん剤の影響で卵巣が働かなくなり、「不妊の可能性が高くなる」と、主治医から説明を受けた。
彼女は2010年、卵巣組織を凍結保存することに同意。産婦人科医により、腹腔鏡で左の卵巣を摘出。将来、卵子になる「卵胞」が大量に含まれている組織を切り取り、縦横1cm、厚さ1mmの切片12枚を凍結保存した。
悪性リンパ腫の治療終了から2年後の2012年7月、保存していた切片のうち2枚を、残っている右の卵巣に移植。半年後、卵胞が育ち、女性ホルモンも通常レベルで分泌されていることが確認できたという(妊娠するかどうかは、未確認のようだが)。
■凍結卵巣の卵子で世界初の出産―ベルギー―
卵巣組織の凍結では、2004年にベルギーのチームが、世界初の出産に成功。欧米を中心に、これまで40人のあかちゃんが生まれたという。
しかし、専門医は「冷凍保存しても(年齢によっては)妊娠の可能性が低いこと、更に、凍結卵子は解凍時に傷がつく恐れがあることも、知っておくべきだ」と忠告している。
■卵子凍結保存―「日本生殖医学会」の指針および意見
2013年に日本生殖医学会が決めた「卵子凍結保存の指針」は、病気の治療などで卵子に影響する恐れのある女性だけでなく、健康な女性の卵子凍結も認めている。ただし、「卵子凍結ができる女性は20歳以上とし、40歳以上の採卵と45歳以上の凍結卵子は推奨できない」との条件付だ。
これに対し、日本生殖医学会の苛原理事長は、「病気の治療のための凍結保存は必要だと思う。ただ、健康な人を対象とした凍結保存は、医療とは言えない。凍結保存しても出産できるとは限らず、この生殖技術は、高齢妊娠の場合には、更にリスクが増すかもしれないことを知ってほしい」と述べている。
■逆行する「リプロヘルス/ライツ」の現在
以上述べてきた刻々過激化する生殖技術は、果たして女性に幸福をもたらすだろうか?
1994年の国際人口開発会議が採択した「性と生殖に関する健康と権利」は、途上国の少女、女性たちが、性器切除、児童婚、交換婚、一夫多妻制他、その居住地域国の宗教・因習による、非人道的・非医学的な妊娠・出産によって健康を害し、年間何十万人もの死を招いている現状を防ぐために、全世界の女性たちが望んだ施策、支援だったはずだ。
ところが一方、先進諸国の女性たちは「少子高齢化社会」を憂うる国策により、加えて生殖技術の過当競争によって、「腹を切り裂かれ、卵巣を取り出され、冷凍保存した後、解凍して“顕微授精”で受精卵を作成され、更に受精卵のすべての染色体異常をチェックされた後、子宮に戻されて」自己の健康を、破壊寸前にまで追いつめられながら、妊娠・出産を強いられて(あるいは、自身が望んで)いるのである。
本稿を書いている間にも、第三者が提供した移植子宮で生まれてくる子ども、貧しい国の女性たちに対価を支払って、その子宮を借りるという、代理母から生まれてくる子どもも報告されている。
しかも、こうして生まれてきた子どもは、その「出自」を早期に知らせさえすれば、「自分は何者か?」と自己のアイデンティティに悩むこともないとまで喧伝されているのである。読者と共に、この問題を討議したいと思う。