2015. 6月

 

戦前の国定教科書に近づく中学校教科書検定

■中学校教科書検定に、政府の見解反映
 4月16日(2015年)、文部科学省は、来春(2016年)4月から中学校で使われる教科書の検定結果を公表、全教科で104点が合格した。文科省は事前に、「学習指導要領」の解説※や「検定基準」を改定し、各教科書会社へのしばりを強化していた。その主な項目を挙げると、
@未確定な時事問題を基に「特定の事柄」を強調しない。
A近現代史で通俗的な数字などの事項は、「客観的な見解でないこと」を明示する。
B閣議決定した政府の統一見解および最高裁判決を踏まえた記述にする。
と、なっている。具体的には、関東大震災(1900年)時に殺害された朝鮮人の犠牲者数、日本の侵略戦争による南京大虐殺、日本軍「慰安婦」の強制連行他を、現政権の意向に添った記述にせよ、ということだ。
 これに反する記述の教科書は検定不合格とされるため、教科書会社は経済面で多大なダメージを受ける。そこで急遽、執筆者に書き直しを依頼したり、削除したりして、合格に漕ぎつけているのが現状だ。

■竹島・尖閣諸島は「日本固有の領土」と強調―
 領土問題は、現政権にとって最重要課題だ。改訂された中学校の地理・歴史・公民教科書の「学習指導要領解説」は、“わが国の固有の領土であることを理解させる”と指定している。
 本稿では「竹島」をテーマに、日韓両国の教育のあり方について述べたい。日本の教師側は、竹島がわが国固有の領土である理由を、
@1905年に日本政府が閣議決定で、島根県に編入している。
A敗戦後の日本が1951年に署名した「サンフランシスコ講和条約」には、日本が放棄すべき地域に「竹島」は記載されていない、と説明。

 一方、韓国の教師側は、@1952年に当時の李承晩大統領が設定した「李承晩ライン」内に、竹島(韓国名・独島)を取り込んでいる。
Aその後、警備隊が常駐。2012年8月、当時の李明博大統領が訪問して警備隊を鼓舞し、「独島」「大韓民国」「2012年夏 大統領李明博」と刻まれた「独島守護標示石」(高さ1.2m)が建てられた、を理由に挙げている。
 さらに「独島教育」は、小学校から高校まで年間10時間が義務づけられており、2012年には、ソウルに『独島体験館』を設立。施設内の「歴史・未来館」では、約1,500年前からの歴史をひもとき、韓国固有の領土であると、見学に来る児童・生徒に教え込んでいる。
 2014年、韓国政府は、日本の小学校教科書に、竹島が記述されたことを受け、「独島教育の一層の強化」策を施行。小・中・高校それぞれに新たな教材を配布し、教員への研修も盛り込んでいる。

■政治の教科書介入、全国の教科書会社に波及する恐れ―
 日本では、領土問題の記述についての議論を重ねた教科書会社は少なくない。某教科書会社の編集者は語る。「平和的に解決する方法を生徒に考えさせるためには、どんな記述がいいか何度も話しあった」。そして、「武力衝突や戦争の原因とならないよう、各国が冷静に問題と向きあい、対立を乗り越えて平和的な解決を目指すことが大切」と結んだ、と。
 しかし、社会科教員には戸惑いもある。大阪府の公立中学校教員は、「私の勤務校には、韓国など外国がルーツの生徒も大勢いる。多感な10代なので、伝え方によっては生徒間に分裂を招く可能性がある」と。
 こうした渦中にあって、去る2014年9月、「新しい歴史教科書をつくる会」は、各教科書会社に対し、全ての教科書から「慰安婦」「強制連行」他を「自虐史」だとして削除、または修正する勧告を出すよう、文科省に申し入れた。義務教育の中学校教科書ばかりでなく、高校教科書へも介入。これを受けて、某教科書会社は勧告に従い、即、高校の公民科「現代社会」と「政治・経済」教科書3点から、指定された部分を削除し、この4月(2015年)から使われている。他社も経営上の危機感から、これに続くのでは?と思われる。

■「過去に目を閉ざす者は、現代にも盲目となる!」ワイツゼッカー
 去る1月31日(2015年)に94歳で逝去したドイツのリヒャルト・フォン・ワイツゼッカー元大統領の、1985年の「戦後40年・連邦議会」での演説を書き止めよう。「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる。(略)周辺国の人びとに与えた悲惨さを、きちんと心に刻み克服していかなければ、周辺国との友好関係は生まれない」。
 「慰安婦」問題はもとより、「南京大虐殺」も「関東大震災時の朝鮮人殺害」も、日本の負の歴史だ。だからこそ、次世代を生きる児童・生徒に、こうした過ちを二度と繰返さぬよう、きちんと教える必要があると思う。教科書の領土問題の解決も、ワイツゼッカー元大統領の演説のとおりと、私は確信している。


※文科省が作成し、教科書編纂時や、学校の授業の指針となるもの

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