2015. 12月
茨城県教育委員が「障害児の出産は防ぐべき」と発言!
2015年11月18日、茨城県総合教育会議の席上、長谷川智恵子(県)教育委員(71)は、「妊娠初期にもっと(障害の有無が)わかるようにできないのか」「世話をするのが大変なので、障害のある子どもの出産を防げるものなら防いだほうがいい」と発言。更に「特別支援学校に通う子どもが増える中、県としても(障害児が増えれば)大変な予算になる」と述べた※。
この発言に対する激しい抗議は、全国的に巻き起こった。新聞の投書欄を見ても「障害児を差別する発言に驚き」「親はどんな子でも大切なのです」「子どもの命があるだけで幸せ」「私にとってダウン症の娘は“人生の師”」など。
日本は2014年1月20日、長年の悲願だった「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights Persons with Disabilities 以下 障害者権利条約)を批准した。とはいえ国連加盟国193ヵ国のうち141番めの批准国なのだから、日本の障害者政策がいかに遅れているかがわかるだろう。長谷川委員の発言も、それを実証している。
ここで長谷川委員の問題発言、「障害のある子どもの出産を防げるものなら…」の出生前診断について説明しよう。出生前診断とは、2013年3月9日に日本産婦人科学会(以下 日産婦)が指針を決定。同年4月から、日本医学会が認定する37の医療施設で始まった妊婦検診のことで、妊娠10週前後という早い時期に、妊婦の採血だけで、胎児の染色体異常を高い精度で判断できる検査法である。ただし、検査技術を開発した米国のシーケノム社に特許権がある。そのため、日本の医療施設での検査結果は、シーケノム社を経て判明する。従って検査および診断料は20数万円と高値になっている。
検査の結果を「ダウン症」を例にとると、人間は23対46本の染色体を持っているが、ダウン症は21番目の染色体が3本と、1本多い。それが妊娠10週前後という早い時期に、妊婦の血液検査だけでわかる上、ダウン症かどうかの判定精度は99.1%の高確率と公表されている。
というわけで、現在35歳以上の高齢出産が全体の1/4を占めるといわれる日本の妊婦たちは、やっと念願叶って宿った胎児への“いのちの選択”を、自ら下さなければならない苦境に立たされる結果となり、今日に至っている。
実際、検査開始の2013年4月から10月までの半年間に、この検査を受けた妊婦は3,514人。検査の対象となった妊婦の平均年齢は38.3歳で、検査を受けた理由の94%が「高齢妊娠を心配して」だった。検査を受けた結果、1.9%にあたる69人が陽性と判明(NIPTコンソーシアム発表)。陽性とわかった時点で更に羊水検査を受けて異常が確定した56人のうち、53人が人工妊娠中絶を選択している。
私が代表を務める「性を語る会(1987年設立、全国に会員約500人)」は、同会主催のシンポジウムで20数回にわたり、障害児・者の人権をテーマに問題提起をしてきた。いくつかの例を挙げると、ダウン症の赤石珠実さん(26)のお母さんは、パネリストとして発言、「この子のおかげで、現在は障害者電話相談員の資格をとり、連日、生甲斐をもって働いています」と。また、8人の子どもの母親、押田淑子さんは、ダウン症のキヨタカさん(38)が「家族の崩壊を救ってくれた。障害があるからって、決して不幸じゃない。彼の存在がなかったなんて、わが家では考えられません」と断言している。
こうして、私たちは「障害者権利条約」第7条の「障害のある子どもが、障害のない子どもとの平等に基づく、あらゆる人権と基本的自由を十分に享受できることを保障する」を実現した人びとの、数え切れないほどの障害児肯定論を聞いてきたのだった。
臆面もなく「いのちの選択・障害児差別」の発言をする長谷川教育委員も、こういう体験を積み重ねれば、あのような発言など、できなかったのではなかろうか?
※ 長谷川委員は発言の2日後、発言を撤回した上で辞職を申し出ている。