2016. 3月
高校生にウソを教えるな!―高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会が抗議―
■一億総活躍社会とは?
文部科学省が、少子化対策を担当する内閣府と連携して作成した高校1年生「保健」の副教材『健康な生活を送るために(A4判 45ページ)』が、2015年8月下旬から、全国の公・私立高校に130万部配布された。それには、副教材として“妊娠しやすい年齢や不妊に関する内容”が記載されており、教育現場では「なにごとか?」と疑問に思う教職員も少なくなかった。
だが、その内幕は、すぐにばれた。配布から1ヵ月半後の10月7日、第三次安倍内閣が成立と同時に、新内閣の目玉として打ち出したのが、アベノミクス第2ステージ「一億総活躍社会」の第2番目の矢『希望出生率1.8人の実現』である。
現在の日本の総人口は1億2708万3000人。少子高齢化で、現在、1人の女性が産む子どもの数は1.42人。日本の人口は、このままいけば50年後には、現在の2/3に当たる8,440万人に落ち込むだろうと推計されている。ここで慌てふためいたのが内閣府だ。このまま出生率が減れば、「国力は目に見えて衰退する」と。そこで、50年後も人口1億人を維持するためには、「希望出生率1.8人」を、なんとしてでも推進したいと考えたのだ。
■高校生に刷り込む「出生率1.8人!」
ところで、配布された副教材を点検すると、「安心して子どもを産み育てられる社会に向けて」の“健やかな妊娠・出産のために”のページには、“妊娠しやすい年齢による変化”の記述と、グラフ@が掲載されていたのである。
これに対し、9月11日(2015年)、有識者らによる「高校生にウソを教えるな!―高校保健・副教材の使用中止・回収を求める緊急集会―」が、東京ウィメンズプラザで開かれ、教育現場からも、どっと批判の声が挙がった。
文科省は、そのグラフについて、すぐに正誤表(差し替え後のグラフA)を出したが、訂正後もまだ問題があることが指摘された。だが、この指摘に対し、文科省・少子化対策・加藤勝信担当相は、「訂正グラフは適切」と公言している。
その公言が正しいかどうか、左のグラフに注目しよう。@が、8月末に全国の高校に配布された“22歳で産みなさいよ”といわんばかりのグラフ。Aが差し替え後のグラフで、“22歳から26歳までが妊娠しやすい”となっている。グラフBを見てほしい。これが、原典となったWood「Fecundity and natural fertility in humans」のグラフだ。@ A Bを比較すれば、文科省が全国の高校に配布したグラフは、誰が見ても、「希望出生率1.8人」の実現を目指す、みえみえの改ざんとわかる。
■高校生よ、内閣府の副教材に洗脳されるな!
2016年1月11日(成人の日)に、東京ディズニーランドで開かれた成人式で、浦安市・松崎秀樹市長は、新成人1,400人を前にして「出産適齢期は18歳から26歳を指すそうだ」「若いみなさんに、大いに期待したい」「人口減少のままでは、日本の地域社会は成り立たない」などと述べ、この副教材に追従した。
過去にも、(日本の15年にわたる侵略戦争のとき)、戦争に送り込む兵士が必要だとして、「産めよ、増やせよ、国のため!」との国策が声高に叫ばれた時代があった。高校生たちに忠告したい。「内閣府の副教材に洗脳されるな!」と。
産む・産まないは、あなた自身が決めることなのだから……。