2016. 4月

 

高市早苗総務相の「電波停止」発言

■電波3法(電波法、放送法、電波管理委員会設置法)とは?
 高市早苗総務相の『電波停止』発言が、騒動を巻き起こしている。記録として残しておくために、その発言を、ここに記載する。
 高市氏は2月8日(2016年)、衆院予算委員会で「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返した」と、判断した場合、“放送法4条”違反を理由に、「電波法」76条に基づいて、電波停止を命ずる可能性に言及した。その言い分は、「行政指導しても全く改善されず、公共の電波を使って繰返される場合、それに対して、“何の対応もしない”と約束するわけにはいかない」、「放送法の規定を順守しない場合は、行政指導を行う場合もある」と、半ば脅迫的とも受け取れる発言を行った。

 そもそも放送法第1条のAは、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による自由を確保すること。第4条のAは、政治的に公平であること。同Bは、報道は事実を曲げないですること、となっている。
 これらは、国側から強制されるものではなく、あくまでも放送局自身が目標とする「倫理規範」であって、それを“国が処分する”となれば、表現の自由を保障した憲法24条違反になるのではないか。
 3月2日、憲法学者らは記者会見し、「総務大臣に指揮命令される形で放送内容への介入が行われれば、放送事業者の表現活動が過度に萎縮しかねず、権限乱用のリスクも大きい」として、「違憲との判断は免れがたい」との意見表明を行った。

■安倍首相の街頭インタビュー批判
 そういえば安倍首相は2014年の参院選前、TBSの「NEWS 23」に出演中、「街頭インタビューの人選が偏っている、公平に選んではどうか?」と文句をつけたのだった。以降、各テレビ局は萎縮したのか、現内閣同調派の市民インタビューを先に、批判派を後に持ってきているような感じがする。
 更に思い出すのは、2015年5月20日、「安全保障法制」に関する党首討論で、当時の民主党の岡田代表から、「納得できない」と追及されると、安倍首相は「私が総理大臣なんですから」「私が総理大臣として答弁しているんですから」と繰返した国会中継だ。これに対し報道も、翌日の紙面で、「リーダーシップか?独裁か?」のタイトルで皮肉ったのだった。

■日本が連合軍の占領下にあった時代の「ファイナース文書」
 さらに遡って、この「放送法」の起源を調べると、敗戦後の1947年、連合国軍総司令部(GHQ)の占領下にあった日本政府に対し、GHQ民間通信局調査課長代理ファイナース氏が、「放送を、政府や政党から独立した機関として管理運用させよ」との方針を指示したとの記録が残されている。これに対し、当時の吉田茂内閣は、「国民の思想、情報、宣伝に重大な影響を持つ放送の管理行政を、内閣の統制が直接及ばない行政委員会方式にゆだねることを強くためらった」と記述されている(資料『マスメディア法政策研究』)。
 この指示(ファイナース文書)に対し、GHQと日本政府は幾度か押し引きし、遂には、マッカーサー最高司令部が吉田首相に書簡を出すに至って、1950年6月1日、「電波管理委員会設置法」が施行されたのだった。
 ところが、それも束の間、1952年4月28日の占領終結を待っていたかのように、同年7月31日、吉田内閣は電波管理委員会を廃止。以降、電波・放送行政は郵政省(現在の総務省)の所管となり、監督官庁の名のもとに、放送に介入するようになったのだった。

■報道の萎縮は、われわれ市民の損失!
 話をもとに戻して、高市総務相の“電波停止”発言に対し、その後、新聞や放送などの「労組連合会」、「日本マスコミ文化情報会議」、憲法学者・弁護士らによる「立憲デモクラシーの会」他の批判が、続々と報道された。
 これらの批判に対し、高市氏は3月1日(2016年)の衆院総務委員会で、「いろいろな意見があるのだなあと、感じさせて頂いた」と述べた後、放送法4条違反を理由に放送局に電波停止を命じる可能性について、「法律に規定されたものは、誠実に執行するのが内閣の役割だ」と改めて主張。「日本民間放送労働組合連合会」は、ただちに3月9日、高市総務相辞任を求める声明を出したが、「反応なし!」だった。

 われわれ市民が心配するのは、この事件によって放送や新聞のメディアが萎縮するのでは?ということだ。政府から「公平でない」と指摘されるのを恐れて報道が手ぬるくなれば、民主主義社会の基本である国民の知る権利が、足許から崩される。この春の番組改編で、政権に厳しく発言してきたキャスターが次々と交代することもあり、新聞記事も「これって萎縮ではないか?」とかんぐりたくもなる最近である。
 高市氏の発言は、こうした疑念を社会に撒き散らした、社会にとって大きな損失であることを、現内閣は反省すべきだろう。

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